(画像提供:wowkorea)
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新型コロナウィルス感染症に対する韓国の「K防疫」。前回の解説では一定の評価はしつつも、南北分断下ゆえに軍隊所属の医療資源の総動員が可能な体制と、私益や個人の自由よりも社会防衛的な観点から「集団利益の優先」が社会的な支持を得られる雰囲気の産物であると指摘した。

それから数か月が過ぎた昨今、死者数こそ低く抑えられているものの、感染者数は一向に減らず、むしろ連休やイベントや政治的なデモが有る都度、大幅に増える傾向を見せている。

こうした状況に対して韓国政府は、公共機関や公企業に対して「公共部門での防疫管理特別指針」を発布して、コロナに感染した公務員は「問責」「処分」の対象にするとまで「暴走」を見せていた時期もあった。

また一般企業においても、感染した社員らを厳しく問責し、解雇に追い込もうとする事案も頻発しているそうで社会問題化したこともある。

感染自体を”罪悪視”した場合、「問責」「処分」を恐れて、あるいは社会的な迫害を逃れようと、感染を疑っても確定診断を強制的に受診させられるまで、体調不良を隠蔽して社会生活を送る事になり、感染拡大の温床となり得る。

韓国政府がこうした非科学的な方針をとろうとしたのは、国際的にも「K防疫」の指揮において高い評価を受けているチョン・ウンギョン(鄭銀敬)疾病管理庁長や中央防疫対策本部の公衆衛生専門家でない、アマチュア・素人である筈の人事革新処が中心となって政策決定をしようとしたからだ。

この背景には公務員は率先垂範すべきと言った「精神論」が有るとの指摘もある。しかし、これに対してはむしろ、災害や事故の発生は「天意」によって統治者の資格を左右する、失政・失徳の通知であると看做す「天人相関説」的観点が強いのではと考える。

つまり感染拡大を見て、政権の致命傷になりかねないと慌てた政権与党とその意を反映した人事革新処が、政治的な次元で出した、専門性・科学を無視・欠如した政策決定にほかならないと考える。

以前も指摘したが、「法の支配」に基づく法治が徹底され、専門性や科学的根拠に基づいた政策決定がなされる近代的な国家においては、災害・事故の発生それ自体は政権与党の責任ではなく、その対応のみ、政治的責任が問われるものだ。

恐らく日本では、新型コロナウィルス騒動発生の責任、政治家としての資格や、ましてや刑事責任を問う声は無いだろう。

一方、感染拡大後の対応、例えば補償無き自粛要請、空港閉鎖と検査結果が出るまでの事実上の軟禁、外国人入国規制の遅過ぎる発令、連休時の外出や旅行への無規制、それどころか「GoTo政策」によって不要不急な外出・飲食・旅行を奨励した等については、政治的責任が指摘される可能性がある。

しかし、儒教文化圏に限らず、古代的な「天と人」「神と人」との関係に束縛される、”脱神話”を果たしていない文化圏では、災害・事故の発生それ自体が、統治者とその側近らの道徳性の反映であり、天・神の警告や怒りだと看做す。

儒教文化圏ゆえに、こうした「天人相関説」的な感覚の韓国では、どうしても昨今の感染拡大は、文在寅大統領以下、政権与党の構成員らの資格が天意(民意)喪失の反映の如く映っていたのだ。

逆に、ワクチン予防接種のスタートと慎重な日本とは比べ物にならないスピード感を持つ韓国式の接種は、天意(民意)が大統領を支持していることになり、政権への支持を急激に高める可能性もある。

経済や不動産の政策で危機を迎えていた文政権が、コロナ禍の中で行われた昨年の総選挙で、300席の国会議員議席の中180席を確保したことは、まさに「K防疫」を巧みに利用した結果だと言えよう。

最近、1瓶(バイアル)5人分のはずだったファイザー社のワクチンが、”K注射器”を使って6人分がとれることが話題になり、韓国では文大統領や執権与党の政治家の業績とされている。

しかし、これで終わりなら韓国ではない。熟練看護師が「神業」を使うと7人分まで接種できるとのことだ。

韓国の国立中央医療院長は「ファイザー製ワクチン1バイアルは0.45cc、解凍した原液に(マニュアル通り)1.8ccの生理食塩水を混ぜると約2.2ccになる。1人定量の0.3ccをピッタリ接種すると、7人分となる」と韓国総理に説明している。

ここで熟練した看護師の話が登場する。「K注射器」で注射器への残量が0に近いピッタリ0.3ccを6回接種できるならば、確かにバイアルには0.3cc以上が残る。しかし、「神業」ではない限り、残量が足りなくなる可能性もある。

しかも、バイアルでの残量確認は難しく、新しい注射器で抽出してみないと0.3cc以上が残っているのかが分からない。もし抽出できた量が0.3ccに満たない場合、残ワクチンを注射器ごと廃棄するしかない。1度バイアルに挿した注射器を新しいバイアルに「2度付け」することは汚染の可能性があり、禁止事項であるからだ。

世論の反発も凄い。「看護師の神業に頼るのは国がやるべきシステムではない」「日本は人口2倍分のワクチンを確保し5人基準で接種するのに韓国は水増しして7人が使えって?」「昔、洋酒やガソリンは水増しして売ってた時期もあったようだが、遂にワクチンもか」「大統領就任式での言葉が忘れられない。一度も経験したことのない国にしやがったな」など皮肉った反応が多い。

6人分の「K注射器」を越えて、7人分の「神業」で王手をかけた「K防疫」。昨年に続き、文政権に2回目の「薬」になるのか、「毒」になるのか、この後を注目したい。
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