画像:八田氏の行きつけの韓国料理店「美名家」にて。
画像:八田氏の行きつけの韓国料理店「美名家」にて。
昨今の韓流ブームの関係で、韓国の食文化への関心も高まる中、東京・新大久保をはじめとするコリアンタウンが賑わいを見せている。韓国へ行かなくとも韓国料理を食せる、とあって韓流ファンのみならず、食通もが通う新スポットだ。

 日本で唯一の旅専門チャンネル「旅チャンネル」では来る8月12日(日/16:00~他)、東京の魅力を届ける地元密着のタウンガイド番組「東京TOWNS」にて「新大久保」を放送する。韓国料理店や韓流ショップ、韓国食材店などが集まり、コリアンタウンとして定着した新大久保は東京にいながら韓国気分を満喫できる街。そんな街をコリアン・フード・コラムニスト、八田靖史氏(35)が案内する。

 八田靖史氏は韓流ブーム以前から韓国料理の魅力を伝えているスペシャリスト。テレビ出演やトークショー開催、韓国料理や韓国語の本を出版するなど、多岐にわたり活躍中だ。最近では、「八田式ハングル世界一やさしい韓国語初級脱出!」(2012年6月5日、学研教育出版)、「韓国語1000本ノック<入門編>」(2012年7月27日、コスモピア)が韓国語学習の初心者に「わかりやすい」と好評を得ている。この度、八田靖史氏にインタビューを実施した。

<b>-韓国料理に興味を持ったきっかけは。</b>
大学で韓国語の勉強を始めて、在学中に留学に行きました。留学の目的が語学の習得と卒業論文(卒論)に関わる資料集めでした。僕の卒論のタイトルは「韓国料理はなぜ赤いか」というもので、唐辛子が朝鮮半島に入ったのが16世紀の終わりごろになるのですが、そこでなぜ定着していったのかというのがテーマでした。もともと食べることが好きだったこと、そして自分自身にとっての専門分野がほしくて、「食」について調べようと思ったのが始まりです。

<b>-卒論「韓国料理はなぜ赤いか」の答えは。</b>
最も簡単な言い方をすると、病気にならないということです。要は「赤いもの」や「辛いもの」というのは“魔よけ”でした。もともと朝鮮時代、科学的知識がない時代に病気は鬼神がとりついて起こると考えられていました。病気にならないためには、健康な体作り、そして、鬼神を追い出すようなものを摂取することがいいとされていたのです。そこで、その思想の根底にあるのは「陰陽五行」の考え方で、陰の力を持つ鬼神に対して、陽の物を摂取するというのがその当時、民間的な信仰としてあり、それが唐辛子の普及に影響したのではないかというのが僕の結論です。唐辛子を食べると体も温まりますし、キムチなどもそうですが、防腐効果がありますよね。そういった病気の予防や腐敗防止に役立つものというところから信仰していったのではないかと思います。しかし、諸説ありますので、これがすべてではありません。

<b>-フード・コラムニストとしての仕事をすることになったきっかけは。</b>
きっかけは新大久保にあります。帰国後、韓国語を忘れないようにと、新大久保でアルバイトをしていました。刺身屋だったのですが、学校で覚えた言葉と仕事で使う言葉は当然違うわけで、しかも刺身屋なので魚の名前など専門的な単語を一つひとつ覚えなくてはなりませんでした。かなりの勉強が必要だと思いましたし、こういうことをまとめたら役に立つのでは、と思ったことが一つです。

その時期が、2001年で日韓W杯の前の年でした。マスコミが少しずつ韓国料理を取り上げ始めていたのですが、その情報がとても曖昧でした。例えば、韓国料理の「カムジャタン」の説明で、「カム=ジャガイモ」としているのですが、実際ジャガイモは「カムジャ」です。これは留学をした身としては、きちんとした情報を伝えなければと思いました。もともと書くのも好きだったので、“書く人”になろうと決め、「コリアうめーや!! 」というメールマガジンを立ち上げました。それがこの道に進む最初のきっかけです。

<b>-今まで実際に見た、変わった・面白い韓国の食文化は。</b>
アルバイト時代の話です。韓国の人たちは、まず“ご飯”という感覚でいます。食事をしないといい仕事はできないと考える人たちなので、まず出勤すると「飯食ったか」と料理長に聞かれ、「食べていません」と答えると、「飯をしっかり食え」とまかないからスタートします。当時、仕事のスタートが“まかない”というのに、カルチャーショックを受けました。もちろん食べてから出勤することもあるのですが、それでもやはり、まかないからスタートするという…(笑)。

新大久保の中は当時、店同士のつながりも結構ありました。僕が働いていたのは刺身屋で隣は中華料理屋だったのですが、まかないチェンジがあったんですよ。あまり刺身ばかり食べていると飽きるので、「隣に行ってジャージャー麺頼んで来い」と頼まれることがありました。こちらからは、刺身丼を作って返すんです。そういう新大久保の中の横のつながりのようなものが働いてみると見えるんです。それが面白くて、新鮮な驚きでもありました。

<b>-テレビなどではあまり紹介されていないが、ぜひ食べてほしい料理は。</b>
地方料理です。まずソウルから出ること!当然日本にも郷土料理があるように、韓国の各町に食文化があるので、山に行けば山の幸、海に行けば海の幸が豊富です。その土地ならではの何かを食べ歩いてほしいですね。
<b>-例をあげるとしたら。</b>
麗水(ヨス)です。万博が終わってからでもぜひ行ってほしい場所です。何を食べても美味しくて、他では食べられないものが多いんです。今だったら、ハモです。ハモの刺身としゃぶしゃぶは絶品ですよ。

また、「カンジャンケジャン」というワタリガニで作る韓国料理がありますが、麗水にはイシガニという小さな蟹(石蟹=トルゲ)のカンジャンケジャン定食を扱う店が密集した通りがあるんです。そこに行くと、メニューはカンジャンケジャンしかないので、座ると定食が出てくるのですが、真ん中にワタリガニの鍋、イシガニのカンジャンケジャンがあって、ヤンニョムケジャンというタレ味のものも出てきます。しかも、おかわり自由で、一人前が7000ウォン(約500円)なんですよ。なんて幸せな町だろうと思いました(笑)。

あとは、舌平目(シタビラメ)の刺身も美味しいです。サンチュや生野菜と甘酸っぱいタレで絡めて刺身和えにするんです。それをご飯の上に乗せてビビンバにして食べます。その刺身和えの酢が美味しいんですよ。麗水はマッコリで酢を作るんです。どの店に行ってもマッコリで作った酢があって、それが麗水における味の要になっています。麗水の食文化の底を支える調味料ですよね。マッコリシクチョ(マッコリ酢)と言うのですが、それ自体が独特なのに、さらに舌平目の刺身のような珍しいものになって食卓に出る…とても美味しいですよ。

<b>-韓国料理の一番の魅力は。</b>
元気になることです。健康にいいものが含まれているという意味と、韓国料理は量自体も多く、ほとんど一人で食べることがありません。みんなで料理を(取り分けないで)つつく姿勢が強いので、人とのコミュニケーションとしての役割も担う料理だと思うんです。人との交流はやはり元気になりますし、その場に韓国人がいれば、「うちの母の味は」という話題にもなりますし、そのような空間が魅力に思います。

<b>-新大久保の今後について。</b>
一昨年、去年とすごく盛り上がりましたが、ことしは各店舗、売り上げや客の流動人数なども縮小傾向にあるようです。ただ一方で店の数は増えているので、弱肉強食の時代が来るのかなという感触はあります。盛り上がりをどう長いものに育てていくのかが、今まで以上に大事になっていくでしょう。情報の発信などもそうですが、分厚い文化を創っていく時期に来たのだと感じています。たとえ谷があったとしても、これまでに出来たものがすべてなくなるわけではありません。韓国を見たという方が少なからずいるわけですから、それに乗って分厚い文化になっていけば、新大久保という場所が最先端の街として果たしていく役割は、まだまだ多いと思います。ブームと呼べるものから、はやく脱却することも大切だと思います。

<b>-韓国料理を通して、伝えていきたいことは。</b>
韓国料理は人に会いに行く料理だとよく言います。いろいろなものを通じての「通じて」の部分はだいぶ揃ってきたと思うんです。K-POPやドラマを通じて知る、そして裏の生の韓国人と会って、「あ、韓国の人たちはこういう人たちなんだ」という積み重ねこそが日韓交流であり文化理解だと思います。そういう素材は用意されてきたので、そこから派生する人との出会いみたいなものが濃密になっていくと面白いのではないでしょうか。一人ひとり、きっかけは違うと思いますが、僕はたまたま料理だったということですね。料理は入り口として開かれているものだと思うので、そういう部分を広めていきたいです。韓国料理を通じていろいろな人に出会ってください。

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