(画像提供:wowkorea)
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前回は給食の話で終わりましたが、今回は“教練(行進)”の訓練からひもときます。

 軍隊と言えば一糸乱れぬ行進がその部隊の完成度をあらわしますので、訓練はハードで朝昼晩と繰り返し繰り返し行われます。北朝鮮の軍事パレードを想像してみてください。どんなにきつい長い時間をかけ訓練を積めばあのような機械的で整然な行進が行えるかを。

 私事で恐縮ですが、韓国で生まれ育った人間にとっては行進がさほど苦になりませんが、ネイティブスピーカーでない私にとってはこの教練が大変苦痛であり、自分の限界を知らされました。

 生まれ育った時から韓国語に馴染んできた人間と、外国語を習う感覚で習得した母国語はいくら韓国人並みに流ちょうに話せたとしても、教練と言うスピードを要する訓練では微妙にずれが生じます。

 例えば、右向け右、進め、などの号令が出た時、ネイティブスピーカーは瞬時に体で反応し行動に移しますが、そうでない私の場合は彼らと違い、号令が発せられると、まず脳に伝わり右か、左かを判断し、それから体に伝令し行動を起こすのですから、コンマ何秒かのずれができ隊列と時差が生じます。

 故に全員が右に曲がっているのに私だけが直進したり、反対の方向に行ったりして隊列を乱しました。特に私は背が低いので最後尾で行進していたため、余計その誤差が目立ってしまいお目玉を食らいました。私個人だけが怒られるのでしたらまだしも、小隊全体が連帯責任を取らされるので、小さな体が余計縮こまってしまいました。

 けれども日本の軍隊物(勝新太郎の「兵隊やくざ」など)の映画の中で見た“要領を本分とすべし”を逆手にとって隊列の中ほどに入れてもらい自分の遅い判断よりも、隊列の流れに身を任せることで言葉のハンデをカモフラージュし、”訓練”と言う名の暴力(しごき)から身を守るすべを学びました。

 内務班での日課を終える”点呼”も恐怖の時間でした。60人がパンツ一丁で30人ずつ向かい合って、号令で全員そろっているかを確認します。1から60人まで一、二、三と発しますが普通は60秒かかりますが、これを約15秒以内で収めるまでしごかれます。

 皆さんは物理的に無理だと思うかもしれませんし、私もそうだと思いましたが、達成できないとその都度気合(こん棒でたたかれるなど)の強度が高まりますので、その恐怖心から1、2、3と言う号令が最後には悲鳴になり、最初の人が”いち”の“い”が出るか出ないかのうちに、2~5番目の隊員がほぼ同時に2345と畳みかけないと15秒は達成しません。

 目標が達成しないとしごかれ続きますので、必死に達成しようともがきました。

 この時、初めて「人間は恐怖に追い込めば、不可能なことも可能にする」ことを身をもって学び、会社生活に活用したばかりか、この国が短時間で先進国入りした原動力がどこにあったかも知りました。

 点呼では人数の確認の他に、支給された帽子、ヘルメット、銃など備品がきちんとそろっているかもチェックされます。中でも帽子が一番なくなりやすいので他人の物を盗んでも点呼までに揃えておかないと、当人だけでなく連帯責任を取らされしごかれますので、他小隊員の帽子を盗むなどして揃えておかなければなりません。

 ですが帽子の補充もたやすくありませんが、ただ一つだけ確実な方法がありました。それはトイレで用を足している人の帽子を取る事です。一般社会では犯罪ですが、訓練所ではそんな常識が通用せず、上官が命ずることを手段や方法を選ばず達成しなければならないのです。

 トイレで用(大の方)をたすためしゃがんでいる人の帽子を拝借するのが手っ取り早い手段です。パッと瞬時に戸を開け帽子をひったくれば、相手がズボンを下におろしてしゃがんでいますから、追いかけてこないので成功率が高いのです。

 皆さんの中には「内から鍵をかければ不可能だ」とお思いの方もいるでしょうが...

 実は訓練所のトイレは厳しい日課やしごきに耐えられず自殺するのを防止するため鍵がありません。ですからトイレで用を足すときは帽子を取られまいと取っ手をつかんで用を足すのが常で、取る方も必死なので力ずくで戸を開けます。取ろうとする側と取られまいとする側の必死の攻防の末、力で負けた方はトイレの取っ手を握ったまま、ズボンをずらしケツ出し状態でうす暗い空間からお日様が照ってる表に放り出されます^^。

 その様子を皆様の想像力で補って見てください。

 韓国男性は20代に、このような普通の感覚ではありえない厳しい体験を一定期間積み重ねて、巨大な(軍隊の)組織の一員として心も体も順応させ鍛え上げられ、実社会に戻されるのです。

<続く>

※権鎔大(ゴン・ヨンデ)韓日気質比較研究会代表の寄稿。ソウル大学史学科卒業、同新聞大学院修了。大韓航空訓練センター勤務。アシアナ航空の日本責任者・中国責任者として勤務。「あなたは本当に『韓国』を知っている?」の著者。

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