「超新星」ソンジェ
「超新星」ソンジェ
2016年9月に京都劇場にて上演された韓国ミュージカル「INTERVIEW~お願い、誰か僕を助けて~」の東京公演が3月1日(水)東京・Zeppブルーシアター六本木にて初日の幕を上げた。

超新星 の最新ニュースまとめ

 この作品は、2016年5月に韓国で2週間のトライアウト公演を行い、その千秋楽を待たずして日本公演とアメリカ・ニューヨークのオフブロードウェイでの公演が決定したという話題作。
京都での初演の際は、「超新星」のソンジェが出演する除隊後初のミュージカルで、しかも「超新星」リーダーのユナクとダブルキャストで主人公を演じたことで注目を集めた。

 会場を東京へ移しての日本再演となる今公演で主人公シンクレアを演じるのは、前回に引き続き「超新星」ソンジェとユナク、そして「モーツァルト!」韓国版でヴォルフガング役などを演じ韓国ミュージカル界で大活躍中のイ・ジフンの3人。

 10年前に起こった殺人事件の謎を解き明かすためにシンクレアと対峙する作家のユージン・キム役には韓国でのトライアル公演から参加しているイ・ゴンミョンとイ・ソングンがダブルキャストで名を連ねる。そして唯一の女性キャストであるキム・ジュヨンが、シンクレアの姉ジョアン役として今回の東京公演に参加している。

 物語の舞台はロンドンにあるとある小さな事務所。美しい女性の声が歌う少し風変わりな童謡をバックに始まる。何かに追い立てられているように電話にでる男、それがこの“インタビュー”の聞き手となるユージン・キムである。東京公演初日の舞台に登場したのはイ・ゴンミョン。細身でソフトなビジュアルからは想像できない迫力の歌声を聴かせる韓国ミュージカル界きっての名俳優だ。

 響くノックの音。この舞台では効果音のひとつひとつにも不穏な空気感が漂っている。そんなムードを一瞬晴らすかのように純粋な眼差しでドア口に立つのがソンジェ演じるシンクレア、この物語の主人公である。

 このシンクレアは、幼少時の辛い体験から自身の中に異なる5人の人格を宿した“解離性同一性障害”いわゆる多重人格を持つというキャラクター。ソンジェはそんな性格も年齢も性別さえも異なる5つの人格を瞬間、瞬間で演じ分ける。彼の中性的なビジュアルは、めまぐるしく入れ替わる人格の中でも不思議な説得力を感じさせた。長身を誇るその身体には、立ち方や座り方ひとつにも人格が現れる。もし日本語の字幕を全く見なかったとしても、今話しているのがどんなキャラクターなのかを説明することができるだろう。

 また、着ていたジャケットを脱ぐ、シャツのボタンをひとつふたつ開ける、それをまたしめる、といった些細な所作がとてもスタイリッシュなのはさすがといったところ。シリアスなストーリーの膨大な会話と渾身の歌唱シーンに圧倒される内容だが、様々なキャラクターを演じ分けるソンジェの姿を見ているだけでもファンにとっては充分楽しめるだろう。

 さらに印象的だったのが、10年前に何者かに殺されたシンクレアの姉ジョアンの登場シーン。妖精のような姿でふわりと舞台に現れては深い爪痕を残していくような存在感があり、美しくそして恐ろしい。そんなジョアンを姉として慕うソンジェ演じる子供時代のシンクレアはただただ無垢で純粋だ。姉と2人きりの小さな、小さな狭い世界の中でやっと息をしているようなか弱い存在だった彼が、この物語の本当の始まりであり、終わらない終わりであるとも言える。

 そんな3人の登場人物が一堂にステージ上で歌声を重ねるシーンもこの舞台のハイライトだ。幻想的なジョアンと不安定な存在であるシンクレアの歌が絡み合う中を、意思を持って彷徨っているようなユージン・キムの声。決してユニゾンにはならない3者の心の在り様が伝わる重要なシーンである。ソンジェの歌声は、心をボロボロにしても“生き続けること”を守らなければというシンクレアの強い意志とそれに付随する矛盾を感じさせる。歌われるのは5つの人格の中の誰でもなく、ひとつしかない身体の叫びのようにも聞こえた。

 ソンジェの演じるシンクレアは、彼の中にいる5人の人格のどれをとっても、とてもかわいい。それ故に「彼は悪くない!彼のせいじゃない!」と主張するユージン・キムの気持ちに痛いほど共感できる。ソンジェ自身が持つ魅力と演じるキャラクターの個性が混ざり合って起こる化学反応は、再演の舞台の上でまた新しい色を見せた。同じものはひとつとして存在しないのが生の舞台。そんな世界でソンジェはシンクレアの命を確かに生きている。



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