カン・ジェギュ監督
カン・ジェギュ監督
7月22日(土)から東京・シネマート新宿、同29日(土)から大阪・シネマート心斎橋で開催される「ハートアンドハーツ コリアン・フィルムウィーク」に、短編映画としては唯一ラインアップされたムン・チェウォンコ・ス主演の「あの人に逢えるまで」。
本作は、南北朝鮮の離散家族をテーマに描いた究極のラブストーリーで、来る日も来る日も「あの人」の帰りを待ち続ける女性ヨニが主人公。

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 「シュリ」「ブラザーフッド」などを大ヒットさせ、分断国家の悲劇的な物語を上質なエンターテインメントに仕上げることに定評のある名匠カン・ジェギュ監督がメガホンを取った。

 「ハートアンドハーツ コリアン・フィルムウィーク」での劇場公開に先駆けて行われた、先行上映会&トークイベントに出席するため、来日したカン・ジェギュ監督に、本作の制作・キャスティング秘話やこだわったシーン、さらには今後の作品作りなどについて聞いた。


<B>―「ハートアンドハーツ コリアン・フィルムウィーク」は、「人と人をつなぎ、心と心をつなぐ、強いメッセージを持った作品をセレクトした上映会」として企画されたものですが、こうした趣旨の上映会で「あの人に逢えるまで」が上映されることをどう思われますか?</b>
普通でしたら、短編映画祭、長編映画祭と分かれると思うんですが、私の短編や、中国出身のチャン・リュル監督の「春の夢」もラインアップされるなど、新しい試みの上映会だと思います。その中に加われたことを意味深く感じています。

<B>―「あの人に逢えるまで」は上映時間が28分ですが、インパクトが強く、余韻の残る作品という印象を受けました。この作品は監督が、風邪を引いて10日ほど家にこもっている間に、一気にシナリオを書き上げたそうですが、シナリオ制作過程のエピソードを教えてください。</b>
ずっと短編映画を撮りたいなと思っていたんですが、香港映画祭から提案を受け、いざチャンスがきたら、何を撮ったらいいかなと悩みまして…。また、これまで撮ってきた作品は大作が多かったんですが、今回は制作費も少なかったので、意味のある短編をどう完成させようか、と考えているうちに、制作に入らなければいけなくなり、そんなときにインフルエンザにかかってしまったんです。体はだるいし、頭はぼーっとするし、コンディションは悪かったんですが、早くシナリオを書かなくてはいけなくて。

<B>―締切があって、時間に追われていたということですか?</b>
そういうことではなかったんですが、体調が悪いので、外出できないし、会社にも行けないし、ずっと家にいるしかなかったんです。だから、体はつらかったんですが、集中することができたんだと思います。

<B>―本作は主人公のヨニが、離れ離れになってしまったミヌをひたすら待ち続ける物語ですが、実話ですか?</b>
いえ、実話ではありません。でも、韓国の離散家族の歴史をみると、似たようなヒストリーを持った方がたくさんいらっしゃいます。私は常に南北分断、離散家族に対する思いが、心の片隅にあります。そういう話を取り扱ったテレビ番組や記事を目にすると、他人事とは思えず、関心を持って接してきました。だから、この作品も、そういう方々の話を参考にして、シナリオを書き上げました。

<B>―これまでとは違い、女性が主人公の作品ですね。</b>
「ブラザーフッド」を作った当時、朝鮮戦争関連のドキュメンタリーを見たんですが、それは戦争に行った夫を待つおばあさんの話でした。それをヒントに、夫婦ではなく、兄弟の話に変えたのが「ブラザーフッド」でした。でも、いつかは夫を信じて待つおばあさんの話を描きたいと思っていたので、それをこの短編に持ってきました。

<B>―ヨニ役をムン・チェウォンさん、ミヌ役をコ・スさんが演じましたが、キャスティングの経緯を教えてください。</b>
こういう短編で、主役級の俳優を起用する必要があるのかとも思ったんですが、撮影期間が5日間で、準備する時間も限られていたので、私がイメージするヨニ、ミヌを的確に表現できる俳優は誰かと考えました。特に、ヨニは70代と20代をちょうどいいバランスで演じなければいけないし、若いときの切ないロマンスが表現できて、一人の男性を生涯待ち続ける純粋なエレガントさも必要だったので、それができるのはムン・チェウォンだなと。それで、ムン・チェウォンを先にキャスティングした後、彼女に一番合うのは誰か、1つのフレームに2人を入れたときの時代感、愛し合っている者同士に見えるか、という2人が醸し出す雰囲気など、それらの条件を総合してみたときに、コ・スがムン・チェウォンの相手役として、一番合っているのではないかと思い、コ・スをキャスティングしました。

<B>―特に、ムン・チェウォンさんは過去のヨニの姿をしながら、現在のヨニを演じるのに、抑えた演技で自然に見せ、その演技が好評だったようですが、監督からはどのような演技指導をされたんでしょうか。</b>
観客は、最初20代のヨニを見ることになります。でもその人物は、実際は70代後半のヨニです。若い人が、なぜ70代の演技をしているのか、それを後で、観客に理解させなければいけないですよね。だから、この人物はおばあさんだったという事実を知ったとき、観客の共感を引き出す必要があったので、20代ですが、70代後半の演技をどれだけ観客に気付かれず、2役をいかに共有するかについての話はしました。

<B>―平壌までミヌに会いに行くシーンでは、20代のヨニ(ムン・チェウォン)と現在のヨニ(ソン・スク)がカットバックするように描かれていますが、2人の女優にどのような演出をされましたか?</b>
そのシーンは、この映画で重要な場面です。2人ともヨニじゃないですか。ヨニは約60年という月日が流れましたが、観客の目に見えるヨニは、20代で愛する夫と別れたときのまま、時間が止まっています。だから、ヨニの顔を夫と別れ、時間が止まってしまった20代のヨニ、もうすぐ80歳になるヨニ、2つの顔で表現したかったんです。
2人の女優には、好きに演じるよう言いました。監督の立場から見ると、2人は同一人物なので、もちろん共通点もあるし、相違点もあり、その2つの演技を見るというのは、胸が高鳴るようなワクワク感がありました。ワンシーンで2つの顔、感情を同時に見られるというのは、観客の立場としても、楽しめることだし、私自身2人の演技を同時に見たかったシーンでもありました。

<B>―物語の冒頭、ヨニがバスの中で読んでいる詩はどういう詩ですか?どうして引用されようと思ったんですか?</b>
インドの詩人タゴールの作品「ギタンジェリ」の詩です。普段から詩をたくさん読むほうではないんですが、タゴールの詩は個人的に好きなんです。この詩は、待つ人の切実さを凝縮している詩だと思って、使いました。

<B>―撮影でこだわったシーンがあれば教えてください。</b>
鏡の前で、20代のヨニ(ムン・チェウォン)が、70代後半のヨニ(ソン・スク)に入れ替わり、実はおばあさんだったということを分からせるシーンがあるんですが、そこはすごく悩みました。どういう状況で、それを見せたら情緒的に感情的にいいか、顔が変わるということをどういう方法で見せれば、観客に十分伝わるか、すごく気を遣いました。

<B>―これまでにも監督は映画のプロモーションや、昨年は大阪韓国映画祭にも出席され、何度も日本を訪れていると思いますが、日本の印象はいかがですか?何か変化を感じることなどはありますか?</b>
私にとって、日本は特別な意味があります。「銀杏のベッド」は日本で劇場公開はされませんでしたが、それ以降の「シュリ」から、今回の短編映画まで、日本の観客の皆さんと、劇場でお会いしてきましたから。でも、徐々に劇場に足を運ぶ方たちの年齢層が上がってきている気がします(笑)。若い方が映画をあまり見ないのではないか、それが変化でもあり、映画を作る立場としてはもどかしい、残念な思いもあります。

<B>―では、若者向けに監督自身が作品を作るという考えはありませんか?</b>
それは日本の映画監督たちが、そういう試みをしたほうがいいのではないですか(笑)。

<B>―今後、監督が準備している作品、撮りたい作品はどんなものでしょうか。</b>
いままでアクション、ブロックバスターのような映画をたくさん作ってきたので、いまは生活感があって、人間味あふれる、明るく楽しい、温かい映画を作りたいという気持ちになってきました。次の作品も、そういうものを準備しています。早ければ、来年末にはお届けしたいなと思っています。

<B>―では最後に、日本の観客にメッセージをお願いします。</b>
時代、歴史、個人という軸があって、国によって、歴史によって、個人の生き様が変化していきます。この作品を通して、そういう個人と歴史の関係性というものを見てもらえるといいと思います。また、この作品は、愛という価値、1度の人生で、生涯1人だけを思いながら生きられるのか、といった愛に関する物語であり、その愛を代弁するのが、待つということです。単純に分断や、時代的な痛みということだけではなく、人と人との愛、恋しさ、待つこと、といった情緒を一緒に感じながら見てもらえたらうれしいです。


 インタビューの最後に、締めくくりのあいさつとして、日本の観客に向けてメッセージをお願いすると、急に考え込んでしまったカン・ジェギュ監督。そして、この作品を通して、伝えたいこと、観客に感じとってほしいことを真剣なまなざしでとうとうと語り始め、使命感を持って作り上げたこの作品への深い愛情が垣間見えた。「あの人に逢えるまで」は、短編ながらも長編並みの見応えで、胸にずしりと響く作品だ。



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