映画の中でせりふが一言もないまま多くを語る隠れた主役がいる。それは事件が起こる空間だ。それ自体が物語る背景地を取材した。

 映画「慶州」のタイトルは新羅の都「慶州」から取った。タイトル通り映画には慶州のあちらこちらがカメラにおさめられている。慶州は物語の背景だけでなく、主題やキャラクターとも相対している。

 ことしのカンヌ映画祭に招待された「ドヒよ」の主な背景は人里離れた海辺の村。外部と断絶された空間は、隣人たちの放置の中に虐待される少女の苦痛を拡大させた。

 釜山は既に映画の常連場所になった。特有の躍動性と地域色はアクションノワールとよく合う。

 各地方自治体の積極的な支援も映画の背景が浮び上がるのに一役買った。主題と繋がる地域固有の特徴は特別な説明もいらずに、観客が映画に自然と溶け込むことができる。物語を黙黙と支える背景は映画のメッセージを伝えるひとつの主人公なのだ。