沈没旅客船「セウォル号」オーナー、ユ・ビョンオン氏
沈没旅客船「セウォル号」オーナー、ユ・ビョンオン氏
4月に起きた韓国沈没船事故。約300人の死亡者を出してしまった大型旅客船「セウォル号」の実質的オーナー、ユ・ビョンオン氏が、白骨が見えるほど腐敗した変死体の姿で発見され、息子、美人の「護衛武士」、運転士など、側近らが次々と逮捕・自首・出頭している。

 ユ氏の遺体は、すでに6月12日にウメ畑農家の人によって発見されていたが、死体発見現場となった韓国・順天(スンチョン)の管轄警察署は1か月以上もただの「ホームレス」の遺体と勘違いしていたという。
22日になってようやく、「推定変死体とユ氏のDNAや指紋の鑑定結果が一致している。」と発表した訳だ。

 ユ氏には5億ウォン(約5千万円)の懸賞金がかけられ、韓国検察と警察は総力を上げて彼の行方を捜査していたが、当局は最後の最後まで失墜したプライドを取り戻すことなく、国民の不信をますます煽る形となってしまった。

 そして、遺体の状態や遺品の種類などから不可解なことが多数指摘されており、「他殺」の可能性も浮上している。

 さらには、ユ氏が逃亡生活中に書いた政府やマスコミを非難する直筆文書が公開されていたことから、その翌日に行われた警察当局のDNA鑑定結果発表に対しては、捜査ミスを隠ぺいするための「捏造」、政府の責任逃れを図る「陰謀」との疑惑説も持ち上がっていた。

 また、指紋鑑定についても、当初は「腐敗のため採取は困難」と発表していたが、DNA鑑定結果の発表後になって「指紋の鑑定にも成功した」と追加発表されたことで、疑問の声が更に上がっていた。

 では、「他殺疑惑」からみてみよう。

 まずは変死体と一緒に現場で発見された焼酎瓶だが、2003年2月に生産された「BOHAE GOLD」(アルコール25%)という種類で2007年に製造中止となった商品だ。
普段からお酒を飲む習慣がなく、アルコール類に対する知識も乏しいはずであるユ氏がそれも逃走中に飲んだお酒とは思えない焼酎と言える。

 ただし、「ホームレス」に偽装・変装するため、ホームレスらしき空き瓶をカバンに入れていたとの説明もある。しかし、それならば、もっと新しい商品の空き瓶が似合うはずだ。

 また、最後にユ氏に会っていた女性秘書は、「隠居地の別荘に検察が来る前にユ氏はある男と一緒にいなくなった。」と供述していたことからも、他殺の可能性を排除することはできない。しかし、英語で日記を書いていた彼女は、後ほどこの陳述を覆す。

 登山用帽子を被ったまま、スニーカーはキレイに脱がされており、腹部に両手をおいて体をまっすぐに伸ばした死体の状態からも、何者かによって演出された雰囲気が漂っているとの意見は少なくない。

 そして、着用していたジャンパーこそイタリア製で100万円ほどの高価品だったものの、遺品の中に金銭類は見当たらなかったことも「他殺」の可能性を裏付けている。

 当初警察の調査によれば、ユ氏は多額の逃亡資金を持って逃走中と知られていたが、現場から金目のものは発見されなかったのだ。別荘の秘密の部屋には、数億ウォン、日本円で数千万円ものの現金が残されていた。

 さらには、変死体の首の骨が胴体から離れていたことにも注目が集まっている。

 東国(トングク)大学警察行政学科の教授は「遺体の首は外部から相当の力によってひねられた様子を見せている。」とコメントしているなど、一部の専門家たちもユ氏の自然死や自殺の可能性を否定しているようだ。ただし、検死を担当した国立機関の解釈は少し違っていた。

 変死体発見現場を担当した警察捜査員の中には、「数年間の経験からして、遺体はユ氏のものではない可能性が極めて高い。」と述べている者もいると報道されている。また、ある専門家は、「遺体発見当時、白骨が表れ、髪の毛が分離されるほど腐敗が進んでいたとされているが、わずか18日間でそのような変死体になることは通常考えられない。」と発言。

 なぜここまで「捏造説」、「陰謀論」が言われているのか。そこには、いろいろな「動機」が存在していると思われているからだ。

 ユ氏の会社の「セウォル号」対して、韓国政府の管理・監督がよくなかったことや、救助体制が良くなかったことだけならば、救いようがある。しかし、韓国の大衆は、政治家や政府官僚たちとユ氏を含めた財閥との癒着を、その根本的な原因だと思っているようだ。

 過去、ユ氏が猟奇的な「五大洋事件」の容疑者から、10年余りの時間で財閥に成長したことに対しても、政治家や官僚の関与などが噂されている。ユ氏さえいなくなれば、そのような「疑惑」も証明できなくなるとの見方であるのだ。

 その上、今回、大勢が被害者になった安山地域の問題もある。ここは、古くから工業団地になっていて、韓国経済を支えてきた労働者の町である。経済発展とともに人件費が上昇、今は韓国でもっとも外国人労働者の比率の高い地域のひとつになっている。

 当然、国際結婚により豊かではない「多文化家庭」の割合も大きい。貧しい時代を体験してきた韓国国民は、今回の犠牲者の大部分を占める高校生被害者に、異常なまでの同情をする現象が起きている。

 また、与党打倒に燃えている野党や、「北朝鮮寄り」または「国家転覆」で起訴され判決を待っている一部の労働運動の勢力が、この事件をきっかけとし、政府に反撃する動きを見せているので、とても複雑な展開になりつつある。

 その結果、「セウォル号特別法」が国会で騒がれている。この法案には、前例のない一般人の「特別捜査権」が含まれている。つまり、捜査・起訴権を独占してきた政府機関、つまり検察の「権力」が崩れそうになっていることだ。

 様々な要因で、現在の韓国は、ユ・ビョンオン氏やその家族を巡る様々な疑惑がニュースになっているが、沈没事故当時、政府に対する不信が頂点に達していた世論の声も再び現れているようだ。

 「これ以上国民を馬鹿にするな!」、「政府や警察や検察の信頼は最低のところまで落ちてしまった。もう回復不可能。」、「検察と警察は、死亡済みの被告に気づかず令状を出して捜査力を浪費していたのか!」など、不信のレベルはかなりのところまで上がっている。

 もしかして、今回の「ユ・ビョンオン死体発見後の現象」も沈没事故発生当時のように二転三転する展開となってしまうのだろうか。韓国政府の対応や警察当局の動きには海外メディアからも鋭い視線が向けられている。


ユ・ビョンオン遺体写真が流出…SNSで拡散
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