◆スター俳優のギャラが高騰
韓国では、「ドラマの制作現場の環境が悪くなっている」という声が多く聞かれる。
そうであるならば、いつから環境が悪化したのか。
韓国ドラマに携わる人々の間では、韓流ブームに火がついてからだという見方が主流のようだ。
昔の韓国は、ドラマといえば大家族のドタバタ劇を描くホームドラマか、時代劇が大半を占めていた。1990年代に入ると、核家族化や視聴者の嗜好の変化から、韓国も日本のように美男美女が登場するトレンディードラマが流行するようになる。こうした作品も、あくまで物語の内容や演出力で勝負することが多かった。
ところが、アジア各国で韓流ブームが起こると、ドラマ制作の主眼は人気俳優がどれだけ出演しているかに移るようになった。
その結果、人気ドラマの収益が飛躍的に増大する一方で、一部のスター俳優のギャラが高騰する事態も招いてしまった。
そして、作品の質に厳しい目を持っていた韓国の人々でさえも、自国の作品が海外で評価されることを肯定的に捉えるあまり、スター偏重になっていく現状を甘んじて受け入れる傾向があった。
◆激務の象徴がプロデューサー
韓国のあるテレビ局のプロデューサーは、そうした問題点を的確に指摘している。
「韓流ブームが起きて、韓国ドラマが大金を稼げるコンテンツになったために、放送局も制作会社も視聴率競争ばかりを意識するようになりました。専門スタッフを地道に育てたりということをしなくなってしまったのです。」
目先の利益を追うあまり、時間や人手をかけて良質の作品を生み出すという意識が、いつしか薄れてしまったのかも。
また、プロデューサーの役割に問題があるという指摘もある。
現在の韓国では、プロデューサーが撮影現場で演出を行なうだけでなく、ドラマそのものの企画や制作管理など多くの業務を兼務することが多い。日本のように、演出は現場のディレクターが責任をもって行ない、その他の制作進行に関わる業務をプロデューサーが担当するというような分業体制が明確になっていないのだ。
韓国ドラマのプロデューサーは、まるで映画監督のように働くわけだが、放送時間が映画の数十倍もあるドラマでこのような働き方をするのは健全とは言えない。結局、制作の総指揮者にあたるプロデューサーが激務を行なっているせいで、その下で働く多くのスタッフたちも、問題が多い労働環境に対して異議を唱えにくくなってしまう。
視聴者は決して甘くない。いくら大物の韓流スターが出演していても、ドラマそのものに魅力がなければ、すぐに飽きられてしまう。
実際、最近の韓国ドラマでは、韓流スターを多く起用したにもかかわらず、視聴率が低迷するドラマが相次いだ。その一方で、企画に優れた作品は好評を博すことが多い。
◆事前制作ができない理由
韓国ではドラマの事前制作が少なく、放送日まで時間がない中で撮影を開始する作品がほとんど。このことが、撮影現場の環境を悪くしているのも事実だ。
今まで韓国で事前制作のドラマが少なかったのは、テレビ局側がそれを受け入れない要素が強かったからだという。
それは、なぜなのか。
もっとも大きな理由は出演俳優の契約問題だ。まず、事前制作だと俳優の拘束時間が長くなって経費がかかる。もともと韓国のテレビドラマの制作は予算が少なく、事前制作に向いていないのである。
また、韓国ではドラマの出演に契約したものの、後でキャンセルする俳優が少なからずいることも理由の1つになっている。つまり、事前制作にしてしまうと、放送日まで時間的な余裕がありすぎて、その間に俳優が契約解除を申し出るリスクが大きくなってしまうのだ。
様々な事情を考えると、まだテレビ局が事前制作を受け入れる態勢が整っていないといえる。
そういう意味では、今後のさらなる発展のためにも、もう一度ドラマ制作の原点に帰って、良質の作品を生み出すことに人・時間・お金をかけてほしい。韓流人気が海外に広がったために生まれてしまった「負の遺産」を克服しないかぎり、韓国ドラマの質的向上が難しくなるかもしれない。
そうなると、一番悲しむのは視聴者たちである。
(文=金昌祐(キム・チャンウ)&「ロコレ」編集部)
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