今、ペ・ヨンジュンに一つの質問ができるとすれば、ぜひ聞いてみたいことがある。(写真提供:news1)
今、ペ・ヨンジュンに一つの質問ができるとすれば、ぜひ聞いてみたいことがある。(写真提供:news1)
今、ペ・ヨンジュンに一つの質問ができるとすれば、ぜひ聞いてみたいことがある。それは、「このまま作品に出ないのですか。来日する度に『新しい作品でご挨拶したい』と言ってくれましたが、あれは社交辞令だったのでしょうか」と。最後の主演作品の『太王四神記』から8年以上。俳優魂は長い眠りについたままなのだろうか。

ペ・ヨンジュン の最新ニュースまとめ


■演技に対する無上の喜び

 一つの作品ごとに全身全霊を傾けて取り組んできたペ・ヨンジュン。彼の俳優人生のスタートは1994年だった。

 その年の10月23日の韓国スポーツ紙・芸能欄に「新人突風を予告」という大見出しの記事が載った。

 これが、ペ・ヨンジュンが初めてマスコミに登場した瞬間だった。

 記事はペ・ヨンジュンが1994年11月1日からKBSで始まるドラマ『愛の挨拶』の主人公に抜擢されたことを詳細に紹介している。中には、「高校在学中から容姿に恵まれていたペ・ヨンジュンは、先生から『おまえは俳優になれ』とよく言われた」というエピソードがあって、思わずニヤリとさせられる。新人俳優のいいところを強調してあげようという好意的な意図を感じさせる文章だ。その記事は、ペ・ヨンジュンの決意あふれる言葉で最後が締めくくられた。

「長いあいだ夢見てきたことが実現して、その喜びを言葉で表せないほどです。同時に、重圧も感じています。初めてのことばかりですが、体力が許すかぎり最善を尽くしたいと思います」

 どれほどの感激をもって、ペ・ヨンジュンは俳優人生をスタートさせたのか。「喜びを言葉で表せない」というコメントの中に、彼の無上の喜びを感じ取ることができる。

 その感激の日から、今は20年以上が過ぎた。

 どんな仕事に取り組むとしても、20年というのは、経験を積むのに十分すぎる歳月だ。人によっては「ものごとの本質をつかまえた」と言い切っても構わないし、「結果には大いに満足している」と自賛してもさしつかえない。

 ペ・ヨンジュンの場合は、前半の10年と後半の10年は作品数に違いがある。もともと寡作とはいえ、後半の10年の主演作は映画『四月の雪』とドラマ『太王四神記』の2本しかない。『ドリームハイ』の特別出演を除けば、現時点で『太王四神記』以降は俳優も休業状態になっている。


■厳しく自分を戒める

 ペ・ヨンジュンが書いた『韓国の美をたどる旅』は何度読んでも珠玉の文章に出会える本だが、その中でペ・ヨンジュンの決意が最も端的に表現されているのが次の文章だ。

「人から見ると、私は本当に豊かで人気も名誉もあると思うかもしれないが、私はそれを手にしたと思った瞬間、死ぬのだと、いつも自分に繰り返し言い聞かせている」

 この文章に込められた壮絶な決意は、ひとりの人間がどこまで孤高になりきることができるのか、という根本的な問題を提起している。

 特に、「死ぬのだ」、「いつも」、「繰り返し」、「言い聞かせている」という言葉の持つ迫力に胸を突かれる。

 韓国の人は「死ぬ」という表現をよく使う。たとえば、「疲れて死にそうだ」という言葉は誰もがすぐに口にする常套句だ。あるいは、相手に対して「お前、死にたいのか」とおどすような表現もよくある。

 このように、「死ぬ」という言葉が韓国でひんぱんに出てくることをよく承知しているが、ペ・ヨンジュンが語った「死ぬのだと自分に言い聞かせている」という決意は生半可なものではない。

 なにしろ、彼は「うぬぼれただけで死に値する」と強調しているのだ。どれだけ自分を戒めていることか。

 そんなペ・ヨンジュンが俳優として演技をしなくても、この先、生きていくことができるのだろうか。


■「まどろみ」から目覚める

 彼は本来、芸術家だった。「表現」という、人間にとって崇高で、他人に最も影響を与えられる手段をからだ全身で行なってきたのだ。

 その成果は、隣国の分別ある人たちに、出会った感激と生きる悦びを、豊穣な実りのようにもたらしてきた。それを芸術と言わずして、一体何を芸術と言えばいいのか。

 わかる人はわかる。わからない人はわからない。

 けれど、わからない人もいつかわかるときがくるかもしれない。そう思わせる神秘的な磁力がペ・ヨンジュンにはあった。

 しかし、今のペ・ヨンジュンは俳優でもなければ芸術家でもない。経営者と呼んだほうがふさわしいだろう。

 芸能界における株主所得番付でも上位に名前がよく出る。それほどの立場になった今、ペ・ヨンジュンがあえて、心身が極限まで消耗する過酷な撮影現場に戻っていけるだろうか。

 確かに、春の日にまどろむと気持ちがいい。ペ・ヨンジュンの俳優魂もその「まどろみ」の中にいるのかもしれない。

 それでも、日本にはペ・ヨンジュンの新作を待ち続けているファンがまだ大勢いる。その人たちの声を代弁する形で最後に一言付け加えたい。

「眠りから俳優魂を目覚めさせて、新しい物語につなげてほしい」

 ペ・ヨンジュンの代わりができる経営者は数多くいるだろうが、ペ・ヨンジュンの代わりができる俳優は1人もいない。


文=康 熙奉〔カン ヒボン〕
(ロコレ提供)

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