■安定したメンバー構成が難しい
前編と中編で書いたことを最初にまとめておこう。
●師団に所属する軍楽隊の構成メンバーは25人ほど。隊員は5~7人くらいの分隊に分けられ、分隊ごとにそれぞれ兵舎で生活をともにする。
●師団に所属する軍楽隊の隊員は、新兵訓練中の兵士の中から選抜されることが多い。
●ユンホは、「打楽器の軍楽隊員」として第26師団の軍楽隊に入っている。
●陸軍は通常、土日の軍務が休みだが、軍楽隊員は休日出勤でイベントに出ることも多い。そんなときは、後に代休を取る。
●軍楽隊の隊員は、木管楽器が10人前後、金管楽器が12人前後、打楽器が4人前後で構成される。
●正式な行事以外にもバンドを組んで民間向けのコンサートに出向くことも多い。
以上のとおりだが、軍楽隊でいつも苦労するのが各楽器をバランスよく揃えるためのメンバー構成である。
というのは、各兵士は新兵訓練を含めて21か月で除隊するので、定期的にメンバーが抜けてしまうのである。
そのために、いくつかの楽器が欠けてしまうこともある。あるいは、特定の楽器を担当する人の力量が落ちる場合もある。
そのあたりが、いつも軍楽隊長の悩みの種なのだ。
■参加する行事は多岐にわたっている
軍楽隊はどんな行事で活躍するのだろうか。〔師団内〕と〔師団外〕に分けて羅列してみよう。
〔師団内の行事〕
・国旗掲揚式
・主要人事の退任式と就任式
・師団訪問者を歓迎する行事
・新兵の入所式および修了式
・殉職者の葬儀
・遺骨発掘に関連する行事(朝鮮戦争で亡くなった兵士の遺骨が発掘されると行なう)
・動員訓練入所式(除隊した兵士が定期的に招集される際に行なう)
・米軍との交流会(防衛上、とても重要な行事である)
〔師団外の行事〕
・民間で行なわれる祝祭、大会、記念日行事
・民間に対して軍の活動を広報するイベント
上記の中で一番つらいのが殉職者の葬儀に参列するときである。息子を亡くした親族の悲しみは底知れない。参列する軍楽隊員の中には泣きながら楽器を奏でる人も多く、このときばかりは心が痛んで耐えきれない思いを抱える。
■静かな環境での個人練習は無理
軍楽隊員が練習で一番苦労するのは、「音」の問題である。
というのは、個人用の練習室があるわけではなく、団体で一緒に同じ部屋で楽器の練習に励むことになる。たとえ個人の練習であろうと、他人の楽器の音が嫌でもガンガン響いてくる。
特に、フルートなど繊細な音を出す楽器の担当者は、全員同じ部屋での練習に苦労するようだ。
また、軍楽隊員もれっきとした軍人である以上、階級による絶対服従が鉄則である。
兵役期間の間、兵士は、二等兵 → 一等兵 → 上等兵 → 兵長と昇級していくが二等兵と一等兵の間は、軍楽隊員といえども雑用が多くて大変だ。
銃と同様に楽器もきちんと管理しなければならず、上等兵や兵長に命じられたら楽器をきれいに磨く作業もやらなければならない。このあたりは、軍楽隊員ならではの苦労と言えるだろう。
また、二等兵と一等兵の間は、夜の休憩時間にも少しは個人練習を重ねていかなければならない。それをやらないと、「まだまだヘタなのに、なんで練習をしないんだ」と上官から怒られてしまう。結果的に、休憩時間を削らなければならないのだ。
上等兵になると、ようやく休憩時間の練習から解放される。それ以外にも、部下が雑用をすべて引き受けてくれるので、グッと楽になる。
■あくまでも謙虚に!
「芸能兵」と呼ばれた国防広報院・広報支援隊員の制度が2013年に廃止されて以降、軍楽隊は芸能人が軍務をこなすうえで最適な部隊とも言われてきた。
確かに、K-POPのスターにとってみれば、兵役期間中にもずっと音楽に親しむことができるのはありがたい。
さらに、兵役に入ったらファンと交流ができないと覚悟していたのに、軍楽隊が民間支援でイベントに出たときには、ステージ上で自分のパフォーマンスを披露することができる。自分の能力を生かせる場を軍隊の中で見つけたという意味では、このうえもない喜びである。
しかし、絶対に勘違いしてはいけない。
軍楽隊員も軍人である以上、何よりも優先するのが軍隊内の規律だ。特に、階級や先輩後輩関係は絶対なのである。このあたりが骨身にしみていないと、好きな音楽ができるということで気分が浮つかないともかぎらない。
韓流スターたちはそのあたりを十分にわきまえていると私(康熙奉〔カン・ヒボン〕)は思う。
あくまでも謙虚に、芸能人の雰囲気を出さずに……。
そうやって兵役期間を過ごせば、仲間からも信頼されて、軍楽隊の日々はとても有意義であろう。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
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