ドラマの主人公は財閥の御曹司ばかり…そもそも財閥って何?
ドラマの主人公は財閥の御曹司ばかり…そもそも財閥って何?
韓国ドラマの中には、定番と言えるほど大企業の御曹司がよく登場する。ドラマのスケールを大きくし、内容を面白くする上でも欠かせない登場人物ではあるが、なぜここまで御曹司が多く出てくるのか?その背景には、韓国が「漢江の奇跡」と呼ばれる経済発展を遂げるに至った苦難の歴史と、財閥に対する国民の複雑な思いが存在している。

■財閥はこうして生まれた

 例の「ナッツ・リターン」の事件でも日本で注目された韓国の財閥。ベスト3を挙げるなら、「三星(サムスン)」「現代(ヒュンダイ)」「LG」である。

 また、日本ではお菓子メーカーにすぎないロッテは、韓国でホテル・百貨店でも売り上げをあげている大財閥だ。

 こうした財閥が、韓国でどのように成長してきたのか。歴史を見てみよう。

 1950年に始まった朝鮮戦争で韓国は疲弊した。しかし、韓国の財閥が誕生したのも、実は朝鮮戦争がきっかけだった。

 当時、三星、現代、ラッキー金星(現在のLG)などの企業は、韓国軍にラジオなどの軍需物資を調達するために設立された。戦争が終わると、今度は生活必需品を生産することで、その基盤を固めていった。

 かつての韓国は軍事政権だったために、経済活動に対する政治の関与がとても強かった。韓国政府は外貨を獲得するために、国の工業化を進め、企業には工業製品を輸出するよう指導したが、どの産業にどの財閥が参入できるかを政府が決めていた。

■韓国の財閥が抱える問題

 銀行を持つことを禁じられていた財閥は、政府から資金を割り当ててもらうか、外国資金の受け入れを政府に保証してもらう必要もあった。

 政府ににらまれた企業は経済界では生き残ることができず、結果的に政府と癒着関係にある企業だけが成長していった。

 このように、現在も韓国経済を引っ張っている財閥だが、問題が多いのも事実だ。

 韓国の財閥は、誕生時から資本と経営が分離されていなかった。そのため、創業者による同族世襲経営が頻繁に行なわれるようになった。

 一族の人間だからというだけで、経営能力がないのにトップや経営陣になる場合が多く、創業者が築き上げた会社を駄目にすることもあった。

 また、一族の人間を経営者にさせるために、必要のない会社を作ることが今でも行なわれている。

 同族経営のため、外部からのチェック機能が弱く、一般の社員は不正に対しても声を上げることが難しい。結果的に、同族経営者の暴走を許すことになってしまう。

 さらに、韓国の財閥はひとつの事業で成功すると、それを足がかりに他の業種に進出することが多い。

 そして次々と事業を拡大し、すべての業種を網羅しようとする。中には新聞などのマスコミまで抱える財閥も存在している。

■反発を持っている国民

 実際、プロ野球を初めとしてプロスポーツのオーナー企業はほとんどが財閥で、スポーツ界に歴然たる影響力を持っている。

 しかし、ひとつの事業で成功したからといって、他の事業でも成功するとは限らない。赤字の会社を抱える財閥も多いのだが、黒字の事業でその赤字分を補ってしまうため、本来なら撤退すべき会社が生き残ることになり、業界内で過当競争を引き起こす要因になっている。

 韓国の財閥はいまだに銀行を所有することが認められておらず、借金の比率が高いのも特徴だ。

 本来、借金は自社の資本金より少ない額に抑えるのが理想だが、1997年の経済危機のときなどは、資本金の7倍もの借金をしている財閥がいくつもあった。

 当時から政府は財閥に対して、借金比率を減らしたり事業の数を整理するように求めたが、いまだに未解決の問題が多く残っている。

 一方、朝鮮戦争以降、韓国経済の成長の原動力となってきた財閥に対して、一般の人たちの考え方は複雑だ。

 そもそも韓国の財閥は軍事政権のもとで生まれ、成長してきた。やむを得ない事情があったとはいえ、時の政権と癒着を繰り返し、同族経営もあからさまだった。そんな財閥に対して、反発を持っている国民が多いのも事実だ。

■複雑な感情がドラマに反映されている

 日本以上に学歴社会だと言われる韓国では、高学歴・高収入のエリートたちが働く財閥はステータスであり、羨望の眼差しで見つめている人も多い。

 韓国の財閥は政界・芸能界・スポーツ界とのかかわりも深く、時折メディアをにぎわすのが御曹司と有名女優の結婚話だ。それこそドラマに出てきそうな数々の話に、思わず憧れを抱く人もいる。

 また、ブランド好きな国民性を反映してか、財閥企業に勤める本人や家族も、そのステータスを強く意識する傾向がある。

 井戸端会議で「私の主人と息子は財閥に勤めているのよ」と誇らしげに話す主婦も珍しくない。

 逆に、財閥を自らの反骨精神を鍛える対象と捉える人もいる。韓国の財閥は上位10位までの売上が、GDP(国内総生産)の多くを占めてしまうなど、まさに韓国経済の屋台骨を担っている。

 しかし、韓国も日本と同様に、数として圧倒的に多いのは中小企業だ。その中小企業で働く多くの人たちが、財閥の繁栄を横目で見ながらも、「負けるものか」と闘志をむきだしにして仕事に励んでいる。

 韓国の人々は反感、羨望、反骨精神などが入り混じった複雑な気持ちで財閥を見ている。そして彼らの気持ちは、そのままドラマにも反映されているのだ。

文=金 昌祐(キム チャンウ)+「ロコレ」編集部

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