ガラガラだと思ったら、空いていたのは最前列だけ。年配の人たちが、しっかり座席を埋めている。
仕方がないので最前列に座り、できるだけ視野を広く取ろうと務めながら、必死にスクリーンを凝視し続けた。
目が疲れた頃、ようやくエンドロールになった。
誰も席を立たない。
スクリーンにはスペイン語の人名が次々に映し出されている。
結局、エンドロールが終わって明かりがつくまで、すべての観客が自分の席でジッとしていた。
私はトイレに行きたかったのだが、出るに出られなかった。これが日本の映画館なのである。
観客も、エンドロールをクライマックスの一部と考えている。それを見ないで帰ることは、映画を完全に見たことにならない。
もちろん、エンドロールの途中で帰る客もいる。それでも日本では、エンドロールが終わるまで席に留まる客のほうがずっと多いだろう。
■観客が一斉に出口に殺到
一方の韓国。
超満員の観客が入ったアクション映画を見たときのことを思い出す。
エンドロールになった途端に、観客が一斉に立ち上がって帰り始めた。
私は席を立たなかった。エンドロールが流れている間は、映画の余韻にひたろうという気持ちがあったからだ。
しかし、韓国の観客は容赦がない。余韻にひたる間もなく、出口に殺到している。
劇場もせっかちだ。まだエンドロールが流れているのに客席の明かりがついて、おじさんが現れて掃除を始めた。
私も意地になって席に座っていた。
私に近づいてきたおじさんの表情がおかしかった。
「コイツはなんで早く帰らないんだ。もう映画は終わったんだぞ」
そんな顔をしていた。
結局、エンドロールが完全に終わったときに客席にいたのは、席にへばりついていた私と、掃除のおじさんだけだった。
■並んでまで食べたくない
映画のエンドロールにおける日韓の違い。習慣が異なるのは確かだが、やはり韓国の人のほうがせっかちだ。
なにしろ、韓国で一番使われる言葉が「パルリ(速く)」ではないか、と言われるほどである。
食堂でも、「パルリ」と叫んでいる人をよく見かける。注文したものが来ないのはわかるが、たいていはまだ5分も待っていない。よほど待つことが苦手なのだろう。
私(康熙奉〔カン・ヒボン〕)の事務所は神田神保町にあるが、昼どきに長蛇の列を作っている食堂が4つある。讃岐うどん、やきそば、ラーメン、焼肉の店である。実際に数えたら、やきそばの店は炎天下に70人が並んでいた。
行列の多さを見た韓国人はかならず驚く。
「うどんや焼きそばを食べるのに、あんなに並ぶんですか。韓国では考えられない」
そうなのである。私も韓国で、長蛇の列をつくっている食堂を見た記憶がない。
帰省ラッシュのときに超満員の列車に乗るためとか、大好きなスターのコンサートを見たためとか、特別な理由で行列ができることはあるが、食堂に並ぶのは時間の無駄と考える韓国人は多い。
そのワケは?
「だって、食堂は他にいくらでもあるでしょ。並ぶ理由がない」
韓国ではその通りである。
しかし、日本では違う。
「好きな店に入るためなら、いくらでも待つ」
行列に慣れた人たちは同じように、映画のエンドロールも最後まで見るのである。
文=康 熙奉(カン ヒボン)
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