いつごろだったかは忘れましたが、韓国の国営放送局KBS(今は公営放送局)の友人と酒を飲んで遅くなり、十二時を過ぎ慌てた私に、その友人は「気にするな、私に任せておけ」と言いましたが、と言われても不安感が拭えるわけではありません。警察につかまれば留置所で一晩お世話になり罰金を払わされます。
彼は私を連れて店を出ました。普通、こういう場合は見つからないように裏道をこそこそ歩くものですが、彼は大通りを堂々と歩くではありませんか!それも歩道でなく車道を、大手を振って歩きました。
もちろん見回りの警官の目に留まり、呼び止められました。びくびくする私を横目に彼は警察官に堂々と、「お疲れさま」と慰労するではありませんか。彼の気勢に押された見回りの警官が、「失礼ですがどちらの方で……」と恭順に聞くので彼は南山の方を指しました。そうしたら警察官は、「失礼しました。お役目ご苦労様です」と敬礼して、何の咎めもなく立ち去るではありませんか。我々は大通りを誇らしげに家へ歩いて帰りました。
なぜだかわかりますか?その答えは、当時KBSは南山にあり、泣く子も黙る韓国中央情報部も南山にありました。彼はKBSのある方向を指しましたが、警察官は「情報部の人だ」と勘違いし、丁重に扱ったのです。
もちろん友人は身分を詐称していません。KBSに勤めていたから南山の方を指しただけで、情報部員だとは言っていません。向こうが勝手に間違えただけです。ですが、間違いを誘導したのは彼で確信犯です。いずれにしても彼の度胸と当時の中央情報部の権勢は絶大なものであることを象徴するエピソードでした。
文=権 鎔大(ゴン ヨンデ)
出典=『あなたは本当に「韓国」を知っている?』(著者/権鎔大 発行/駿河台出版社)
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