2002年の大統領選挙で「戸主制の廃止」を公約とした進歩系のノ・ムヒョン(盧武鉉)大統領(画像提供:wowkorea)
2002年の大統領選挙で「戸主制の廃止」を公約とした進歩系のノ・ムヒョン(盧武鉉)大統領(画像提供:wowkorea)
先日、日本の自民党総裁選挙の際、野田聖子氏が今回もまた国会議員の推薦人20名を集められず、出馬出来なかった。彼女の主要公約の一つが「夫婦別姓(法的には“夫婦別氏”)」である。

 サイボウズ社長で有名な青野慶久氏らが結婚時に夫婦別姓を選べない戸籍法は憲法違反だとして国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、今年2月に東京高裁はこれを棄却した。青野慶久氏らは最高裁に上告するそうだ。

 こうした「夫婦別姓」を巡る論争を耳にする度に、日本における「夫婦別姓」論争に対して「優越感」を持っていたある韓国人を思い出す。彼はこのような議論に対して、韓国に比べて「男女平等」が遅れている証だと解釈していた。確かに、1990年代くらいまでの日本のフェミニストらも、韓国では女性の権利が守られ、地位が高いために「夫婦別姓」が認められていると誤解していた。

 儒教文化圏での「夫婦別姓」とは、女性は所詮、子供を産む畑や道具に過ぎず、夫や子供らと同じ「姓」を名乗る資格さえも認めない意味でもある。極めて女性差別的な慣行であるのに、なぜ気が付かないのか、あるいは知らん振りをしているとも思われた。

 この場合の「姓」とはあくまで父系・男系の血統を表すもので、子供は父親の「姓」を継承するものだと言う大前提の下での「夫婦別姓」なのだ。故に韓国民法では「子は父の姓に従う」とされ、2008年の法改正によって、婚姻届提出の際に夫婦間の同意を条件に例外的に母の姓を名乗れるようになったくらいだ。

 ちなみに韓国だけでなく、中華圏のフェミニストや指導層を中心に、こうした父系・男系中心主義的な「夫婦別姓」を嫌って、「合成姓」を用いる女性もいる。

 例えば、香港特別行政区行政長官の「林鄭月娥」氏もそうだ。「林」は夫の姓であり、自身の元々の姓(父親の姓)の「鄭」だ。彼女の合成姓のケースは、日本や従来の欧米文化圏同様、結婚に伴い夫の「姓(厳密には氏もしくは名字・苗字)」へと変えるのを拒む為に、昨今の欧米文化圏が追加「姓」方式で、自身の元々の姓を残しつつ、これとの合成だった。

 なお、欧米文化圏ではその為に、結婚・出産・世代交代等の都度に追加して行く為に、正式名が異常に長い「姓」(家名としての氏もしくは名字・苗字)を持つ人物が少なくないのは、人名事典やニュース等を見れば一目瞭然だ。

 ちなみにフランス等の一部の欧州諸国では、国家の管理は「戸籍」「世帯」ではなく、「個人(韓国の住民登録や日本のマイナンバーに相当する国民や住民の個人番号)」単位で行う為に、また事実婚や同棲が一般化して法的な結婚制度が形骸化・崩壊している為に、子供の「姓」は兎も角、夫婦間では別姓が一般的となっている。

 また『世界』誌上で上野千鶴子氏との往復書簡を通して、日韓のジェンダー問題や慰安婦問題等を語り合った文化人類学者であり、ヨンセ(延世)大学教授の趙韓惠浄氏のケースもある。姓を継ぎ続ける父権中心社会に対して拒否の意志を示す父母「姓」の併記方式だ。つまり、父の姓「趙」と母の姓「韓」との合成姓である。

 だが韓国における問題はそうした父母「姓」併記を選択しても、合法的なものでなく、戸籍上は(1)「父の姓」を正規の「姓」としているか、(2)上述の2008年の法改正に伴って婚姻届提出の際に夫婦間の同意を条件に例外的に「母の姓」を正規の「姓」としているか、のいずれかだ。つまり日本で言う所の運用上での「通称使用」または「旧姓使用」に近い。

 故に子供が生まれた場合は、子供の姓には戸籍上の父親か母親のいずれかの「姓」を付ける事になる。中華圏では結婚を機に林鄭月娥氏の様に夫と父親の姓同士を合成させるのに対して、韓国では趙韓惠浄氏の様に結婚如何とは無関係に自身の父母の姓を合成させると言う傾向が見て取れる。

 ちなみに韓国でその例外を認めた2008年の法改正は、大統領選挙と関係がある。2002年の大統領選挙で「戸主制の廃止」を公約とした左派・進歩系のノ・ムヒョン(盧武鉉)候補が当選した。以降、法改正に拍車がかかり、日本の半島統治時代から戸籍制度に欠かせなかった「戸主制」は2008年に廃止されたのだ。

 日本における「夫婦別姓・夫婦同姓」を巡る問題と比べれば、儒教文化圏の夫婦別姓の現住所と、その根底にある女性差別や男性中心主義への抵抗としての「合成姓」の利用なのだが、決して女性にとって優しいものだけではない筈だ。

 また子供の「姓(氏・苗字・名字)」の問題は日本においても、韓国を始めとした儒教文化圏においても、解決の目途はたたない。いずれにしても、単純に儒教文化圏の「夫婦別姓」を理想化しているのは大いなる誤解に基づくものだと指摘したい。

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