この背景には、儒教文化圏ならではの、言動の決定要因である「上下関係」の厳格な位置付けがあってこその「序列による秩序」とその「安心感」ゆえなのだろう。特に日本と比較して様々な分野のランキングの上下に一喜一憂する現象は面白い。
特にノーベル賞受賞者の発表時期の秋に騒がしくなってしまうのは、こうした事ゆえだ。ちなみに今秋には日本人のノーベル賞受賞者が出なかった。韓国人も受賞こそ逃したものの、有力な受賞候補に挙がった事もあり、例年と比べるとやや穏やかだった気がする。
いずれにせよ、韓国にとって、あらゆる分野のランキングにおいて、日本を上回るという事は、もしかしたら反共・反日以上の「国是」かもしれない。もちろん、韓国の「反日」とは実は「本当の反日」と「克日」が混ざっているとの主張もある。日本に統治された「恥ずかしい歴史」や「日本の圧倒的な力」を克服して、日本以上の存在になるのだと言うのが所謂「克日」である。
そんな中、長年日本よりも上回る順位をつけ、日本人を見下し得ると考えているのが、「英語力」なのだ。特にTOEICの平均点(2019年)で韓国は19位678点を挙げ、43位523点の日本を大きく上回っている。中国が38位571点、台湾が40位562点、香港が42位541点なので、韓国は東北アジアではかなりの英語力を持っていると言えよう。
韓国滞在経験のある日本人であれば、日本人は英語が下手だとの話は耳にタコが出来る程、聞かされた筈だ。日本人に「McDonald’s」を発音させ「マクドナルド」の発音を聞くと、韓国人は笑いながら喜ぶ。新たな「序列」が決まり「安心」したりすることである。
また韓国は平均点が高過ぎる所為で、世界的な公認英語試験の難易度が高くなってしまっているとの噂がある。就職や留学に必要なスコア取得の為に、試験の平均点が低くて難易度も低い日本まで「遠征受験」しに行くと有利になるとの話だ。難易度の話は真偽までは分からないものの、少なくともそのように信じている韓国人は多い。
韓国人の「英語力」に対するこだわりは、もちろん良い職場や高い学歴や高収入の仕事を求めるからである。しかし、韓国社会としては別の意味も持っている。昔、儒教的な秩序を求めた「冊封秩序」ではないが、実質的な今の世界共通語であり、かつ盟主たる米国の言語であるからだ。
もしもその英語が下手で、下位・劣位になるなら、韓国は社会総意として我慢できない。ちなみに日本では韓国人が英語発音の改善のために「舌を伸ばす手術をした」という刺激的な報道ばかり目立つが、そこまでのケースは極めて少ないようだ。
この事は中世から近世にかけ、日本に朝鮮通信使が派遣された際、日本の指導層の漢文技能の低さを「野蛮の証」として見下し、教導してやらねばならないと記した通信使らの日記や報告書等にも見て取れる。
これを現代に戻すと、韓国の外国語学校の逸話がある。インド系の英国ネイティブスピーカーの英語教師がいた。他の白人系のネイティブスピーカーの同僚らからも高評価を受ける程の美しいキングス・イングリッシュ(英国英語)を駆使していた人物だった。
ところがインド系の外見、肌の色の所為も有り、韓国人学生の多くがその教師に対して正確な発音をしろと要求した事件があった。事情や要求をよくよく聞いて見ると、韓国は英語の試験や教科書は全て米国英語で統一されていた為に、その教師のキングス・イングリッシュを訛りや方言と勘違いしていたのだ。
米国英語だけを基準として(場合によっては世界言語・標準語と看做して)上下の順位を定め、高順位を目指そうとする韓国の現実が見えてくる。
韓国にとっての上下感覚とは、実に狭い基準・分野での特化や純化に基づいている。英語が出来る人材も、韓国語が出来る人材も、場合ごとによって評価し得るもので、英語が出来るか否か「のみ」が人材評価ではない筈。
しかし、極めて一元的な価値判断が前提となっているのが現実だ。おまけに英語と英語以外の言語との間に明確な順位・上下関係が存在し、韓国語でさえも、見下されてしまうと言う皮肉な事態も指摘されている。
日本ももっと英語力の向上に資源を投入すべきだろう。またコロナウィルス騒動の所為で下火になってしまったが、近年日本でも流行っている、格安な上に長時間の一対一式レッスンを中心としたフィリピンへの英語留学も、韓国が先鞭をつけ開拓してきた分野だ。
こうした英語学習への執念については、日本人も韓国人の爪の垢を煎じて飲む必要があり、見習う点も多々あるだろう。しかし、キングス・イングリッシュを訛りや方言だと断定するような、米国英語のみを標準言語の如く扱う一元的な上下関係・ランキング感覚は見習うべきものではない。
また、それを所与のものの如く看做す感覚、それらに基づく英語下手な日本や他国を見下す韓国の態度姿勢は、一元的な上下関係・順位・序列意識に基づいて言動を決定する韓国の「特殊性」に基づいているからだ。
米国のバラク・オバマ前大統領は新たな回顧録で、日本の鳩山由紀夫元首相について「硬直し迷走した日本政治の象徴」「愉快だが厄介な友人」「この10年間、日本を苦しめてきた政治の象徴」などと回顧している。当時の首相の中で最も英語力が優れていて、通訳を通さずにオバマ氏とコミュニケーションができた鳩山氏である。
そのような彼が相手からここまでの酷評を受けるならば、やはり外交は「英語力」の問題ではないようだ。非英語圏の外相としては「世界一の英語力」を持つ韓国のカン・ギョンファ(康京和)外相には是非とも頑張ってもらいたいものだ。
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