韓国には青瓦台のホームページで国民からの要望を受け付ける「国民請願」という制度がある。この制度では、登録された1件の請願に対し、30日以内に20万人以上の同意が得られた場合、政府や大統領府関係者が何らかの回答することになっている。
今回、朝鮮日報が激しい批判を受けているのは、同紙が6月21日、性売春の関連事件を伝える際、全く関係のないチョ・グク(曹国)元法相やその娘の写真をイラスト化して掲載したこと。
チョ元法相といえば、ムン・ジェイン(文在寅)大統領の側近として、次期大統領を目指していた人物。娘の不正入学疑惑などさまざまな疑惑が浮上し、一昨年10月、法相就任からわずか35日で辞任した人物。日本でも「タマネギ男」として知られている。
朝鮮日報が性売春関連の事件を伝える記事に掲載したイラストには、帽子を目深にかぶり、携帯電話で通話する女性や、バッグを肩にかけた男性の後ろ姿などが描かれている。イラストの女性は、スマートフォンで通話しながら歩くチョ元法相の娘の写真に酷似しており、後ろ姿の男性のイラストは、昨年9月、チョ元法相が、娘の誕生日祝いにケーキを買って帰宅する際に撮られた写真とそっくりだ。
記事のイラストを見たチョ元法相は23日、自身のフェイスブックに、このイラストを掲載した上で「私の娘の写真をイラスト化して性売買関連の記事に掲載した」と指摘。「朝鮮日報に要求する。問題の絵を掲載した人物は誰なのか明らかにせよ」などと責任を追及した。
同日、朝鮮日報は、「チョ・グク氏と家族、読者の皆様へ謝罪申し上げます」とのタイトルで謝罪文を発表した。
しかし、チョ・グク支持者の批判は高まり、同日に国民請願の掲示板にあがった「朝鮮日報を廃刊させよ」とのタイトルの請願に対する同意者27万人を突破。その後も増え続けている。
朝鮮日報は韓国で最大の発行部数を持つ日刊新聞。創刊は日本の半島統治時代の1920年3月で、韓国で最も古い歴史を持つ新聞でもある。韓国の歴史教科書にも載っていて、1919年の「3・1独立万歳運動」で統治危機を感じた朝鮮総督府が「武力統治」から「文化統治」に政策転換をすることでやっと創刊できたとされている。
日本による統治下では、抗日運動を紙面で展開したとして、朝鮮総督府から強制廃刊を命じられたこともあった。現在は右派・保守派を中心に幅広い支持を得ているほか、2001年には韓国の新聞の中で最も早く日本語サイトを開設し、「聯合ニュース」と「Wow!Korea」が日本語サービスを開始するきっかけとなった。
保守系の論調を取り、これまでムン・ジェイン(文在寅)政権を厳しく批判してきた新聞でもある同紙の廃刊を求める請願は、日本政府による対韓輸出規制強化を受けて韓国内で日本への反発が高まり始めた2019年7月にも上がった。
朝鮮日報が「日本語版記事で反韓感情を煽るような見出しを付けたり、日本政府の主張に沿った記事を書くなど、国益を損ねている」として廃刊を求める請願で、同意者は25万人を超えていた。これ対し、大統領府は当時、「報道機関を廃刊することは慎重に検討すべきこと」と回答していた。
現在、韓国では「メディア懲罰的損害賠償制」について議論されている。意図的に虚偽情報を発信して名誉棄損などの被害を負わせた場合、発信元に損害額の3倍まで賠償させるというもの。
当初はユーチューブやSNS投稿などオンラインの虚偽情報のみを対象にする方向で議論されていたが、革新系執権与党「共に民主党」の支持層を中心に「なぜ報道メディアだけ対象から除くのか」との批判が高まり、メディアも対象に含むことになった。野党からは「来年の大統領選挙を控え、批判的なメディアを黙らせようとしているのではないか」との批判も上がっている。
野党からは「メディア脅迫法」との声も上がる法律が議論されている渦中に巻き起こった朝鮮日報の廃刊を求める請願。最近、香港では中国当局の弾圧により「リンゴ日報」が廃刊に追い込まれた。回答基準の20万人を超え、文在寅の大統領府はどのような回答をするのだろうか。
チョ・グク氏は朝鮮日報を相手に10億ウォン(約1億円)の賠償を求めている。
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