「(国家情報院所属で駐日公使出身の洪榮氏が)国家情報院を退職して、日本の右翼団体に加わっている陸軍士官学校出身の先輩たちに工作資金を与え、その工作資金で活動し始めた。工作資金は二種類ある。(洪榮氏に)毎月数百万ウォンずつ月給の如く支給されるものと、工作事業費として支給されるものがあり、工作事業費は金額が大きかったと記憶している」
このような証言に続いて、「PD手帳」はモザイク処理された国家情報院の元高位関係者だと言う人を登場させ、「口座送金は絶対せず、現金で支給した」という話を紹介すると同時に、現金入りの封筒が交わされる演出場面を出した。そしてただちにPD手帳は「退職した洪榮氏に国家情報院が工作資金まで支援すると同時に、付与されたその任務は2012年の大統領選挙関連の世論工作であったのだ」と言及した。
言い換えれば、情報提供者の証言、そして情報提供者の証言と直接関連が無いように見える情報機関の経費支出慣行(現金使用の原則)に関連する証言を互いにつなぎ結び付けた後、「退職した洪榮氏に国家情報院が工作資金を支援」と言って断定した。
調査報道番組の生命は「客観的証拠の確保」だ。ところがPD手帳は韓国の国家情報院と日本の右翼団体との間の不当な取引を立証しうる客観的証拠を確保できなくなるや否や、「情報機関は元々現金を使用して取引」と言うことを口実に「証拠の提示」部分を疎かにしてうやむやのままやり過ごしたのだ。
情報提供者の情報提供時期は2021年1月であるので、7か月間掘り下げて調査したわけだ。であれば、7か月の間に洪榮氏が国家情報院の関係者から月給方式の工作費用あるいは巨額の工作事業費を現金で受け取った現場やある種の接触状況を見せてくれる写真なんか一枚でも提示して初めて、視聴者に対する最低限の礼儀ではないか?
視聴者を無視する態度は放送の開始部分から著しかった。独島関連団体代表(チェ・ジェイク、崔在翼)と慰安婦関連団体代表(ユン・ミヒャン、尹美香)などが日本に入国するたびに、日本の保守団体が如何やって把握して出て来たのか、事前に押しかけてきて進路を妨害するなどの横暴を働いたと語った。
そして、こうなった原因は関連団体(独島、慰安婦)の情報を韓国の国家情報院が事前に日本の公安側に渡して、日本の公安は再びその情報を日本国内の保守団体に渡したからだと説明した。
2017年2月8日、韓国メディアには以下のような内容が報道された。
「日本の『竹島の日』廃止を促し求めるために国内の独島関連団体(代表:崔在翼、60歳)が抗議の訪問団を結成して日本現地へ向かって出国した…日本の島根県が来る22日に開催する第12回『竹島の日』記念行事を糾弾するためだと、独島守護全国連帯が7日に明らかにした。彼らは2006年から毎年日本の現地を訪れ、抗議のイベントを開いて来ている。彼らは22日午前10時に島根県の県庁舎前で独島が韓国固有領土であることを知らせる記者会見を開き、午前11時には県民会館の広場で日本政府による独島強奪の蛮行中止を要求する集会を開くという計画だ。抗議訪問団は崔代表を始め、ソ・ヒョンリョル副代表(60)、ユ・ホンレ(60)、随行員1名などの4名だ」
2019年9月28日には「独島は我らが国土、韓国市民団体が日本の総理室・防衛省に抗議訪問の予告」(世界日報)と言うタイトルで次のように報道された。
「…崔在翼代表は『今回の訪問は独島守護連帯による16回目の日本への抗議訪問だ。36年間の流血の歴史を記憶する我らが国民が居る限り、日本政府による侵略の歴史は決して消えない』と声を上げた。この団体は来る30日に日本の総理室に抗議文を渡して、防衛省の前で『防衛白書』糾弾声明を発表する予定だ」
日本へ出発するはるか前からメディアを通じて大々的に喧伝している。到着日は勿論、参加者の氏名、年齢まで全て掲載されている。日本国内での経路を十分に斟酌させうるイベントのスケジュール(島根県、総理室、防衛省への抗議訪問など)までとても親切に紹介されていた。毎年こんな風に大々的に喧伝をしてから日本へ出発した。
2013年8月12日にはこのような報道があった。
「…挺身隊問題対策協議会は慰安婦顕彰日である来る14日正午に日本、米国で『世界日本軍慰安婦顕彰日』イベントを開催する。これを通じて被害者の名誉と人権の回復、日本政府による謝罪と賠償を要求する計画だ…」
日本で慰安婦顕彰日イベントを開催すると言うのであれば、事前に場所も交渉しなければならず、日本国内の各種団体と事前に連携しなければならず、一般人の参加まで期待するのであれば事前の宣伝が必須だ。
であれば、こんな風に世間の皆が知らされた事を日本の保守団体のみ知らずにいられるだろうか?国家情報院が平素から尹美香のような人物の動向に神経を使うのは、彼らが持つ理念的性向の為であって、世間の皆が知る彼らの日本入国スケジュールや日本国内の経路の為でない。
番組への情報提供者は「全世界で北朝鮮に対する総合的で、深みのある分析力を備えるのは我々だけ」だと言及すると同時に、櫻井よしこ、西岡力など、日本の保守団体(国家基本問題研究所)の中心メンバーに対する国家情報院の情報ブリーフィングが存在したと言及した。
番組はこのような国家情報院のブリーフィングのお蔭で、当該団体(国家基本問題研究所)の社会的地位・評価が高くなるようになったと主張した。
西岡力などの日本の保守系の人々は「日本人拉致問題」に大きな関心を見せている。従って情報提供者の証言通り、万が一、国家情報院がブリーフィングをしたのが事実だと仮定しても、それは「拉致問題」と関連した北朝鮮情報の共有の次元だっただろうと推定しうる。
だとすれば同じ自由陣営の隣国の国家元首(総理)の最側近の人々に人道主義的次元から「拉致被害者に関する北朝鮮情報」を共有したわけとなるのだが、だとすればこれがそれほど不適切な事案となって受け入れ不可能な事案となるのか?
国家情報院による北朝鮮に関する情報ブリーフィングは、必要な時、日本だけでなく米国などの自由陣営の中心的な人々に対してもいくらでも実施されうる。日本にだけは絶対に許されないという風であれば、これは非正常であると同時に独善だ。
加えて北朝鮮に関する情報だと言って、専ら韓国だけがよく把握していると考えるのであれば、それは錯覚だ。情報は「ギブ・アンド・テイク(Give and take)」だ。日本から助けられることも多い。大韓航空機(KAL)の撃墜事件および爆破事件当時、日本が提供してくれた肝心要な情報のお蔭で、ソ連の蛮行を明らかにし、キム・ヒョンヒ(金賢姫)の身柄確保を通じて北朝鮮の蛮行を立証した。
国家基本問題研究所の社会的地位・評価が高まったのが、国家情報院が実施してやったブリーフィングのお蔭だという情報提供者の証言は恣意的であり主観的だ。当該団体のメンバーは既に日本国内で最高権力者の中心的な側近として、はるか以前からその社会的地位・評価は高い状態だった。
日本で「統一日報社」関連業務を行う「洪榮」氏について、PD手帳は「国家基本問題研究所の中心メンバー」だという風に紹介した。「洪榮」氏の当該研究所での職責は「客員研究員」だ。中心メンバーだという人物の職責が「企画委員」でもなく、「先任研究員」や「主任(責任)研究員」でもない、「客員研究員」だとなっているのを如何理解すべきか?PD手帳が中心メンバーだと規定すれば、そのまま中心メンバーとなると言うのか?
国家基本問題研究所の「企画委員」である西岡力氏が執筆した書籍について、PD手帳は「慰安婦と徴用に関する歴史歪曲をする本」だと断定した。ところで本の内容が歴史歪曲なのか、そうでないのか、PD手帳が如何やって分かるのか?読んでみたりでもしたのか?歪曲だと断定したのであれば、何故歪曲なのか簡単にでも理由を明らかにすべきだ。歪曲(わいきょく)の有無を立証する能力が十分でなければ、そのまま「慰安婦と徴用に関する本」だと紹介してこそ適切だ。
国家情報院の海外工作官出身だという情報提供者は、国家情報院在職時に監査を受けたと番組で公表された。ところがどんな事由で監査を受けたのか明らかになっていない。ただ苦しめられたとだけ公表された。情報提供者は日本で勤務した。ところで耳を疑わせるくだりがあった。PD手帳は情報提供者について以下のように紹介した。
「彼は日本で対共産圏(反共)業務を遂行する一方で…在日韓国人と共に『歴史を正しく知らせる』運動をしたりもした」
海外に派遣される情報機関の要員が「歴史の立て直し」のような、業務と全く関係の無い活動を民間人と共に展開したということが、話になるのか?世界の何処の国の情報機関の要員がそんな風に任務を遂行するのか?情報機関の要員として資格が不十分だ。このような情報提供者の情報をどこまで信じるべきか?
陰謀論のようなものには関心が無い。しかし、今回のPD手帳の放送時期は妙だ。肝心要な軍事装備の導入反対キャンペーンを展開したスパイ容疑者の検挙に伴う余波が続いている過程で、もしかして「反日」で希釈をしようと言う意図ではなかったのか?
スパイ容疑者らに対する国家情報院の捜査が大詰めに向かって突き進んでいる状況で、何か希釈させうるイシューを探してから、急に見出したのがもしかして今回の件ではないのか?
このような疑いは合理的だ。何故ならば、一から十までPD手帳の今回の放送は、内容がとてもいい加減で手抜きだからだ。ゆえに今回の「不当な取引‐国家情報院と日本の極右」と言うタイトルのPD手帳は、論理と物証は全て疎かにして、反日感情にのみ訴える扇動放送に違いない。
一言で言って、推測報道の水準にとどまる放送番組だった。狂牛病報道の煽動履歴を大事に保っている番組「PD手帳」らしく、必ず態度に出すものだ。
※この記事は韓国の保守論客ファンドビルダーさんの寄稿文を日本語に翻訳したものです。韓国メディアには既に韓国語版が公開されています。翻訳の正確さに対する責任は当社にあります。
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