<W解説>韓国の尹政権が真相究明に乗り出した2019年の北朝鮮住民強制送還事件とは?(画像提供:wowkorea)
<W解説>韓国の尹政権が真相究明に乗り出した2019年の北朝鮮住民強制送還事件とは?(画像提供:wowkorea)
韓国のムン・ジェイン(文在寅)前政権時代の2019年に、日本海でだ捕した北朝鮮の船に乗っていた男2人を強制送還した事件をめぐり、ユン・ソギョル(尹錫悦)政権が真相究明に乗り出す考えを明らかにした。

 事件は2019年11月、イカ釣り漁船に乗った北朝鮮の漁師2人が、日本海上の南北軍事境界線にあたる北方限界線を越え、韓国に向かって航行しているのを韓国当局が発見。調べを進めたところ、漁師2人は過酷な扱いを受けていたことへの不満から、船内で同僚の乗組員16人を殺害した疑いがあることが分かった。韓国政府は通常、脱北者を受け入れているが、2人が韓国の安全保障を脅かすと判断。脱北者ではなく犯罪者として扱い、強制送還した。

 事件当時、野党だった「国民の力」の前身の「自由韓国党」は「北の顔色をうかがっている」と批判し、国会による国勢調査を求めた。その後、弁護士団体が大統領府の国家安保室長や警察庁長を相手取り、情報公開を請求したが、国家の安全保障上の理由から敗訴した。

 一方、この事件について、尹大統領は先月、「多くの国民が疑問視し、問題提起している」とし、真相究明に乗り出す考えを示唆した。韓国統一部は今月11日、事件について「北朝鮮への強制送還は明らかな誤り」と明言した。事件当時、統一部報道官は「彼らは殺人など、重大な非政治的犯罪のため北朝鮮離脱住民法上の保護対象ではなく、韓国社会への編入時に国民の生命と安全に脅威となり、国際法上の難民にもならない。そのため政府は省庁間の協議に従い、追放を決定した」と説明していた。今回、見解を変えた形だ。統一部のチョ・ジュンフン報道官は11日の定例会見で「統一部は脱北漁師が憲法上は大韓民国民であり、北朝鮮に引き渡した場合に受けるであろう様々な被害を考えれば、脱北漁師の北送は明らかに間違った部分があるとの立場だ」と述べた。

 さらに統一部は12日、南北の軍事境界線がある板門店で、男2人が北朝鮮側に引き渡された当時の写真を公開した。待合室から出されて送還されそうになると男が手で顔を覆い、抵抗する様子が捉えられている。

 大統領室のカン・インソン報道官は13日、「もし、亡命の意思を表明していたのにもかかわらず強制的に送還したなら、国際法と憲法に反する反人道的・反倫理的な犯罪行為」とし、「自由と人権の普遍的な価値を回復するため、この事件の真実を究明する」との方針を明らかにした。

 北朝鮮は、この事件を住民への「精神教育」に利用しているとの指摘も出ている。「国民の力」のハ・テギョン議員は12日、「北朝鮮当局は漁師が強制送還された後、住民らに『脱北しても南韓(韓国)当局が全員北朝鮮に送り返すので無駄だ』という精神教育を行っているようだ」と話した。北朝鮮が事件の事例をその後の脱北阻止や内部結束に利用している可能性があるとの指摘だ。

 また、事件をめぐっては、当時の統一部が強制送還の正当性を強調するため、送還された2人について凶悪犯とする表現を繰り返し使った報告書を作成していたことが分かった。統一部が当時国会に非公開で提出した報告書はその項目が「凶悪犯罪北朝鮮住民追放関連報告」となっていた。報告書の中では2人について「殺人犯たちは20代前半のがっしりした体格」「一人は普段から体を鍛えていた」「もう一人は窃盗犯で、刑務所に収監された前歴が確認された」などといった記述も見られた。これを報じた韓国紙・朝鮮日報は「処刑や犯罪の前歴を集中的に記載し、凶悪犯に仕立て上げたのだ」と解説している。

 事件の責任を問うとして、「韓半島(朝鮮半島)人権と統一のための弁護士会」は13日、殺人未遂の疑いでムン前大統領を刑事告発した。団体は「送還された漁民は亡命意向書まで直接作成していたことがわかり、2019年当時、『亡命の意思が全くなかった』というムン政権の発表が偽りだったことが明らかになった」と主張している。

 現政権が事件について真相究明に乗り出す方針を明らかにしたことから、今後、捜査機関が2人に対して行った際に作成された供述調書などが公開されるものとみられる。事件をめぐって、前政権の北朝鮮対応の問題を指摘する異例の事態となっている。

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