韓国国会はパク・クネ(朴槿恵)政権時代の2016年3月、北朝鮮住民の人権保護と増進に寄与することを目的に、北朝鮮人権法を成立させた。法律は第10条で「北朝鮮の人権の実態を調査し、南北人権対話と人道的支援など北朝鮮の人権増進と関連した研究と政策立案」を目的に、北朝鮮人権財団を発足させることを定めている。
しかし、2017年に政権交代があり、ムン・ジェイン(文在寅)政権は財団発足に消極的で、発足しないまま現在に至っている。2018年には財団の事務所として使用する予定で政府が賃貸契約を結んでいた建物が使用されている形跡がないと韓国メディアが指摘。東亜日報は当時「15階建てのビルの7~8階を借り切った1322平米のオフィスに、統一省から派遣された書記官が1人しかいない」と報道。韓国CBS(キリスト教放送)は財団設立の目途が立たないまま15億ウォン(当時のレートで約1億5260万円)の税金が無駄になっていると指摘した。
これを受けて、当時の統一相は賃貸契約をいったん解除すると発表。「北朝鮮住民の人権改善と、北朝鮮人権財団の早期発足のため努力するという政府の基本方針に変わりはない。発足が決まれば事務所を新たに借りる」と説明したが、結局、ムン政権で財団発足がなされることはなかった。
こうした状況に、北朝鮮の人権問題を担当する国連のキンタナ特別報告者は、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)を通じて今年3月に公開した北朝鮮人権法報告書で、韓国政府に対し、財団を早期に発足させ、人権問題に関し北朝鮮とのの協議を進めるよう勧告した。
キンタナ氏は自身が北朝鮮人権特別報告者に就任した2016年以降、北朝鮮の人権状況は悪化の一途をたどったと指摘。「北朝鮮の食糧危機の悪化と、国民の自由に対する厳格な統制、新型コロナウイルスの世界的大流行を受けて取った国境封鎖など、北朝鮮の人権問題に対して強く懸念している」と報告した。報告書では中国やロシアなど第三国にわたった脱北者の人権問題についても指摘した。その上でキンタナ氏は、強制送還禁止原則「ノル・ルフールマン原則」を取り上げ、「強制送還時に、人権が侵害される恐れがある脱北者には、こうした原則を適用すべきだ」と訴えた。キンタナ氏の報告書によると、現在、中国国内には、北朝鮮に強制送還された場合に深刻な人権侵害を受ける恐れがある脱北者約1500人が、「違法移民者」として拘束されているという。
19日に、財団の発足を「積極的に推進する」と発表した、大統領室のカン報道官は「(財団発足を定める)北朝鮮人権法が有名無実化しており、国際社会でも問題提起されている」とし、「財団理事の推薦を与野党に強く要請する」と述べた。
また政府はこの日の閣議で、北朝鮮人権国際協力大使に、コリョ(高麗)大学政治外交学科のイ・シンファ教授を任命することを決定した。イ氏は国連平和構築基金の諮問委員や、韓国国連体制学会会長などを歴任した。外交部(外務省に相当)はイ氏について「国際協力関連の経験が豊富であり、北朝鮮住民の人権改善や人道支援に向けた国際社会との協力で役割を果たされることに期待している」と説明した。
前政権では滞ったままだった北朝鮮の人権改善に向けた取り組みが、新政権の下で成果が上がるのか注目される。
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