元徴用工訴訟で、韓国の大法院(最高裁)は2018年10月に新日鉄住金(現・日本製鉄)、11月に三菱重工業に対し、それぞれ原告への賠償を命じた。両社とも履行を拒んだことから、原告側は韓国内にあるこれら企業の資産の差し押さえと売却(現金化)に向けた手続きに踏み切った。大法院は早ければ今夏にも強制執行の開始に向けた最終判断を示すものとみられている。
仮に現金化がなされれば日本政府は制裁措置を辞さない構えで、日韓関係のさらなる悪化は避けられず、韓国政府も現金化は何としても避けなければならないとの認識だ。こうした差し迫った状況下、韓国政府は、日韓最大の懸案でもあるこの問題の解決に向け官民協議会を先月発足させた。外交部のチョ・ヒョンドン第1次官が主宰し、学者、元外交官のほか、当初は一部の原告側弁護士もメンバーに加わった。
これまでに、先月4日と14日の2回会合が開かれた。2回目の会合終了後、外交部の当局者は、記者団に対し「かなり多くの意見を聞くことができた」と成果を強調した。一方、支援団体は会合で「被告となった日本企業による謝罪が前提だ」と主張した。また、2回目の会合から、三菱重工業を相手取った訴訟の原告2人の支援団体「日帝強制動員市民の集まり」と弁護団が不参加に。協議会の合意形成に暗雲が立ち込めた。団体側は「当事者の立場を尊重し、加害者である三菱側の謝罪と賠償のほかに解決策はないということを改めて確認する」と強調した。
こうした中、外交部は先月26日、元徴用工問題の解決に向けた外交的努力を説明する意見書を大法院に提出した。意見書では「日韓の共通利益に合致する合理的な解決策」を探るために外交協議を進めているほか、問題の解決のために外交部が先月発足させた官民協議会を挙げ、「原告側や各界各層の意見を集めるなど、多角的な外交努力を続けている」と説明しているという。意見書には法的な拘束力はないが、資産の現金化によって日韓関係がさらに悪化する事態を懸念している韓国政府としては、現金化の判断を先延ばしにできれば、その間に原告を交えた国内の意見集約や日本との外交協議を前進させられると考え、意見書の提出に踏み切ったものとみられている。外交部は「公益に関する事案については国家機関の意見提出が可能だという点を勘案して意見書を提出した」とし、その趣旨については「外交努力の一環」と説明している。
意見書提出に、原告の支援団体は猛反発。三菱重工業を相手取った訴訟の原告の支援団体「日帝強制動員市民の会」などは2日、記者会見し、「外交部が提出した意見書は事実上、現金化に対する大法院の決定の先送りを求めるものだ」と批判。意見書は被害者の権利の実現を妨害する行為であり、司法制度に対する挑戦だとし「もう一つの国家暴力だ」と怒りをあらわにした。
他の元徴用工の支援団体も外交部の意見書の提出に反発。原告側は「被害者側の権利行使を制約する重大な行為で、憲法が保障した迅速な裁判を受ける権利を侵害した」と批判。これまで開かれた2回の会合に参加してきたイム・ジェソン弁護士は「被害者側との信頼関係を完全に失わせる行為だ」と外交部への不信感をあらわにし、今後、協議会に参加しない考えを示した。
発足からわずか1か月で原告側が全員、協議会から外れることになり、解決策を見出すことが一層困難になった。
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