元徴用工問題をめぐっては、戦前に日本企業に強制労働をさせられたと主張する元徴用工が提訴。韓国の大法院(最高裁)は2018年10月に新日鉄住金(現・日本製鉄)、11月に三菱重工業に対し、それぞれ原告への賠償を命じた。両社とも履行を拒んだことから、原告側は韓国内にあるこれら企業の資産の差し押さえと売却(現金化)に向けた手続きに踏み切った。大法院は近く、原告が差し押さえた日本企業の韓国内資産の売却(現金化)命令を出す可能性がある。仮に現金化されれば日本政府は制裁措置を取る構えで、そうなれば日韓関係は破綻するとさえ言われている。
日韓関係改善に意欲を見せるユン・ソギョル(尹錫悦)政権は問題解決を図るための官民協議会を先月発足させた。外交部のチョ・ヒョンドン第1次官が主宰し、学者や元外交官のほか、当初は原告側の代理人らもメンバーに加わっていた。チョ第1次官は初会合の終了後、「今日のような対話の場が、問題解決の重要な推進力になる」と強調した。しかし、外交部が先月、大法院に対し問題解決に向けた外交努力を説明する意見書を提出したことに原告側が猛反発。「被害者側との信頼関係を完全に失わせる行為だ」とし、協議会に今後参加しないことを明らかにした。このため、今月9日に開かれた3回目の協議会は原告側が全員不参加の中で進行した。外交部のパク・チン(朴振)長官は今後、原告側とは直接会って意見を聞く考えを示しているが、当事者側が全員不参加という不完全な形で今後進められることになる協議会の意義が問われる事態となっている。
三菱重工業の資産の現金化に関する大法院の最終判断は迫っており、一部の韓国メディアは担当裁判官が今月4日に退官するため、近く判断が下されるとの見方を伝えている。しかし、外交部の関係者は「裁判官が、担当する事件を全て処理してから退く義務はなく、9月4日が期限だと判断する必要はなさそうだ」との見解を示している。また、仮に現金化が確定しても、その後、資産価値の評価や購買などの手続きが必要となるため、その間にも解決策を探る時間は残されている。
一方、外交部当局者は先月30日、「期限を念頭に置いて(解決策作りを)推進しているわけではない」と改めて強調した。
こうした中、朴外相が近く訴訟の原告と面会することが分かった。聯合ニュースによると、外交部の当局者は「被害者の意見に耳を傾けるために可能な限り努力を続ける」とした上で、「(原告に)直接会って意見を傾聴し、意見が十分に受け入れられるよう努力する」と強調した。韓国政府は原告側が官民協議会への不参加を発表した際、別の方法で原告の意見を聴く方針を示しており、朴氏が面会する計画もその一環とみられる。
しかし、原告側の支援団体は先月25日に大法院の前で、現金化を早急に確定するよう求める集会を開くなど、日本との関係改善を急ぐ韓国政府の姿勢とは相いれない動きを見せており、朴氏が面会によって原告側の理解を得られるかは不透明だ。
一方、日本側は元徴用工問題に関して、日韓両政府が1965年に結んだ日韓請求権協定で解決済みとの立場で、韓国側が解決策を提示するよう求めている。そんな中、テレビ東京は30日、日韓外交筋への取材で、自民党の二階俊博元幹事長が率いる二会派が、今月、派閥の勉強会に韓国のユン・ドンミン(尹徳敏)駐日大使を招く方向で調整していることが分かったと報じた。二階氏は中国や韓国に独自の人脈を持っていることで知られる。テレビ東京は「膠着(こうちゃく)する日韓関係を二階氏の人脈で動かし政府をリードしたい」と語る、同氏周辺の声を伝えている。
徴用工問題に関して見解が異なる両国だが、現金化は絶対に避けなければならないという点では両政府とも一致している。その現金化が差し迫る中、日韓両国の動きが一段と活発になってきた。
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