<W解説>韓国・パク・チョンヒ(朴正熙)元大統領が発動した「大統領緊急措置」とは? (画像提供:wowkorea)
<W解説>韓国・パク・チョンヒ(朴正熙)元大統領が発動した「大統領緊急措置」とは? (画像提供:wowkorea)
韓国のパク・チョンヒ(朴正熙)元大統領が在任中に発令した「緊急措置9号」に違反したとして逮捕や処罰、拘束された国民やその家族が、国に損害賠償を求めた裁判で、韓国大法院(最高裁)は先月30日、国の責任を認め、賠償を命じる判決を言い渡した。同様の訴訟で、2015年に大法院は「大統領の緊急措置権行使は、高度な政治性を帯びた国家行為であるため、大統領の権力行使が国民一人一人に対する関係で民事上の不法行為を構成するとは言えない」と判断し、原告の訴えを退けた。大法院は7年を経て、今回、当時の判断を覆す判決を言い渡した。

 朴元大統領は1972年、北の脅威が高まっているとの口実で憲法を自ら改正、非常事態をちらつかせながら独裁を敷く「維新体制」を確立させた。改正した憲法は「維新憲法」と呼ばれ、大統領選の直接選挙制廃止や大統領権限の大幅強化などが盛り込まれた。53条では「大統領が国家の危機状況と判断する場合、憲法に規定された国民の自由と権利を暫定的に停止することができる」と規定。朴元大統領はこの規定を根拠に、1974年に裁判所の令状なしに人心拘束を可能にする緊急措置1号と緊急措置違反者を非常軍法会議にかける緊急措置2号を発動。そして1975年には、維新憲法への誹謗(ひぼう)・反対禁止などを定めた緊急措置9号を発動し、揺るぎない独裁体制を確立させた。これらは1980年の新憲法で削除された。

 2013年に憲法裁判所は、政府の施策を批判し緊急措置違反の罪で服役するなどした6人が起こした憲法訴願で、裁判官全員一致による違憲判決を出した。当時、憲法裁は緊急措置1、2号について「立法目的の正当性や方法の適切性を持たないうえ、罪刑法定主義に背く」とし、「表現の自由、令状主義及び身体の自由、裁判官による裁判を受ける権利など、国民の基本権を過度に制限または侵害した」と判断した。緊急措置9号については「政治的表現の自由、集会の自由、学問の自由を過度に制限または侵害する」と結論付けた。

 一方、大法院は2015年、大統領の緊急措置権行使について「維新憲法を根拠にした大統領の緊急措置行使は、高度な政治性を帯びた国家行為であるため、政治的責任を負うだけにとどまり、国民一人一人に対する関係で民事上の違法行為を構成すると見ることはできない」と判断。緊急措置の発令によって被害を被ったとして、国家賠償責任を求めた原告の訴えを退けた。当時、大法院はヤン・スンテ氏が大法院長(最高裁長官)を務めていた。ヤン氏はこの訴訟や元徴用工訴訟について、当時のパク・クネ(朴槿恵)政権の意向に忖度(そんたく)した判断を下したと指摘された。ちなみに朴槿恵氏は緊急措置を発動した朴正熙氏の娘だ。

 緊急措置の被害者団体は敗訴した後も「緊急措置権の発動を正当化した判決を白紙化すべき」と訴え続けてきた。

 そして先月30日、遂に2015年の大法院の判断を覆す判決が出た。緊急措置9号に違反したとして起訴され、有罪判決を受けて服役した被害者とその家族ら71人が国に損害賠償を求めた訴訟で、大法院は国の賠償責任を認めた。「緊急措置9号は違憲、無効であることは明らか。緊急措置9号の発令から適用・執行に至る一連の国家行為は違法と評価され、それに伴い強制捜査を受けるか、有罪判決を受けて服役した個別の国民が被った被害に対しては、国家賠償責任が認められる」と指摘した。

 大法院はまた、緊急措置9号の発令から適用・執行に至る一連の国家行為は「全体的」なものだとした。

 判決について、韓国紙のハンギョレ新聞は「警察や検察、裁判官など多数の公務員が関与した場合は、個別的かつ具体的な違法行為を問う必要はなく、全体的に国民の基本権の保障義務を疎かにしただけでも十分に国家賠償責任が認められるとの趣旨だ」と解説した。

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