元徴用工訴訟をめぐっては、韓国の大法院(最高裁)が2018年10月に新日鉄住金(現・日本製鉄)、11月に三菱重工業に対し、それぞれ原告への賠償を命じた。両社とも履行を拒んだことから、原告側は韓国内にあるこれら企業の資産の差し押さえと売却(現金化)に向けた手続きに踏み切った。仮に現金化されれば日本政府は制裁措置を取る構えで、そうなれば日韓関係は破綻するとさえ言われている。そのため、現金化は絶対に避けなければならないという認識では日韓両政府とも一致している。
今年4月以降、三菱重工業が現金化命令を不服として行った再抗告についての審理が行われていたが、審議の主審を務めた大法官(最高裁判事)が2日に退官した。一部報道ではこの大法官が退官する前に最終判断が出されるとの見方があったが、退官に伴い日韓両政府が懸念する現金化に向けた最終判断は当面、先送りされる見通しとなった。
こうした中、文元国会議長は6日、韓国の経済団体、全国経済人連合会(全経連)がソウルで開催したセミナーで基調演説し、問題解決策として基金案を提案した。文氏は同案に加えて被害者第一主義、日本の痛切な反省と心からの謝罪、韓国主導の被害者支援、大法院判決の尊重を原則に掲げた。文氏は「私が構想した解決策をもって、韓日首脳会談で『キム・デジュン(金大中)・小渕恵三共同宣言』(1998年の日韓共同宣言)を改めて確認し、21世紀の韓日パートナーシップを実践していくことを期待する」と述べ、日韓首脳会談の早期の開催を促した。文氏が演説で挙げた「日韓共同宣言」では、両国における緊密な友好協力関係を高い次元で発展させ、21世紀に向けた未来志向的な関係を構築することで認識を共有している。同宣言はその後の日韓交流の礎となり、その後、経済や文化、人的交流は活性化した。日韓関係改善に意欲を見せるユン・ソギョル(尹錫悦)大統領もこの宣言を支持している。
文氏はこの日、2019年に引き続き改めて基金案を提案したが、当時、国会議長だった文氏は、同年11月に訪日した際に同案を提案した。日本政府は元徴用工問題に関して、1965年の日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決された」として、韓国側の責任で問題解決すべきとの立場で一貫してきた。当時、文氏が基金案を提案した際も自民党議員からは「まともに議論する価値なし」などと批判が相次いだ。また、原告の支援団体からも「被害者にとって大変に侮辱的で、これまで守ってきた尊厳を害するものだ」と反発の声が上がった。文氏は基金案を柱とする法案を韓国国会で発議したが、結局、2020年に廃案となった。
文氏は超党派の国会議員でつくる韓日議員連盟で2004年~2008年まで会長を務め、その後2020年まで顧問を歴任した韓国政界を代表する日本通として知られる。
日韓最大の懸案である元徴用工問題の解決のため、尹政権はこれまで精力的にアクションを取ってきた。7月には官民協議会を発足。外交部のチョ・ヒョンドン第1次官が主宰し、学者や元外交官のほか、当初は原告側の代理人らもメンバーに加わっていた。しかし、外交部(外務省に相当)が先月、大法院に対し問題解決に向けた外交努力を説明する意見書を提出したことに原告側が猛反発。「被害者側との信頼関係を完全に失わせる行為だ」とし、協議会に今後参加しない考えを示した。そのため、3回目以降は原告側の関係者が全員不参加で進められ、5日に開かれた4回目が最後となった。
韓国政府は今後、有識者や原告側から寄せられた意見を参考にして日本側に提示する解決策を検討する方針。外交部のイム・スソク報道官は6日の定例会見で「非公開で出席者を制限する形の協議会はこれ以降開催されないが、4回目の協議会が意思疎通の終わりではない」と強調した。また、協議会の議論の中で、「財団や基金のほか、被害者支援財団など、既存の組織が履行の主体となる案も取り上げられた」と明かした。
文氏が再び提案した基金案が、今後有力な解決策としてなり得るか?
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