THAADは米国の移動式陸上配備型ミサイル防衛システム。約800キロの範囲を探知可能なレーダーと6台のミサイル発射台で構成される。大気圏外から落下してくるミサイルを上空40~150キロの高度で迎撃する。
北朝鮮の短・中距離弾道ミサイルに備えるため、THAADは2016年に当時のパク・クネ(朴槿恵)政権が配備を決定し、翌4月に南東部のキョンサンプクド(慶尚北道)ソンジュ(星州)の在韓米軍基地に配備された。しかし、これをきっかけに韓中関係は悪化し、中国は韓国に経済報復を加えた。韓流コンテンツの規制も強化し、中国の映画館で韓国映画の上映を禁止したほか、韓流スターのメディア露出を制限するなどした。これは「防韓令」などと呼ばれ、中国への韓流コンテンツの輸出は大打撃を受けた。韓国銀行(中央銀行)の国際収支統計による、2016年10月の「音響・映像および関連サービス」の収入は5150万ドル(当時約59億円)で、前年9月以来の低水準となった。
THAADのレーダーシステムは中国の領土も監視できるため、中国は韓国のTHAAD配備が軍事的な脅威になるとして強く反発している。先月9日付の中国官営メディア「環球時報」は「THAADは米国が北東アジアに打ち込もうとするくさびであり、目的は地域情勢をかく乱して漁夫の利を得ることだ。韓国は友人(米国)が渡した剣を絶対に受け取ってはならない」と主張した。
中国側からの反発を受け、2017年10月、当時のムン・ジェイン(文在寅)政権は「THAADを追加配備しない、米国のミサイル防衛システムに参加しない、韓米軍事同盟を結ばない」という、「三不(三つのNO)方針」を掲げ、中国側の理解を得ようとした。
しかし、今年5月に就任した尹大統領は「THAAD」の追加配備を公約に掲げて当選した。大統領選の候補者時代、北朝鮮のミサイル発射に関連し「THAADを含む重層的ミサイル防衛網を構築し、首都圏と(ソウル近郊の)キョンギド(京畿道)北部地域まで、北朝鮮の核ミサイルの脅威から国民の安全を確実に守る」と宣言した。
先月、中国を訪問した韓国のパク・チン(朴振)外交部長官(外相)はTHAADについて、「北の核とミサイル脅威への対応は自衛的な防衛手段であり、我々の安全保障主権」として、文前政権が掲げた「三不方針」は合意や約束ではないことを中国側に説明した。
朴外相は中国の王毅(おうき)外相と会談し、THAAD問題などについて議論。朴外相は会談で「中国側が『三不方針』を取り上げれば取り上げるほど、両国国民の相互認識が悪くなり、両国関係の障害になるだけだ。新しい未来志向の関係のため、この問題はこれ以上提起しないことが両国関係に役立つ」と話したという。一方、中国側は「三不方針」に加え、配備済み施設の整備をしないことも含めて「以前、韓国が対外的に示した」と指摘。THAAD問題の「適切な処理」を韓国側に求めた。
尹大統領は16日、訪韓した栗戦書全国人民代表大会上部委員長と会談。「今年8月に国交正常が30周年を迎え、量的な面で飛躍的に成長してきた両国関係を、次の30年では相互尊重と互恵の精神に基づき、質的にさらに発展していくことを期待する」と述べた。THAAD問題も議論され、尹氏は「最近、韓中外相会談で議論されたように、両国が互いに緊密な意思疎通を通じてTHAAD問題が両国関係の障害物にならないようにしなければならない」と述べた。これに対し、栗氏は「互いに敏感な問題に対する緊密な疎通が必要だ」と応じたという。一方、「米国側が北朝鮮問題の解決に実質的な措置を取らないどころか、むしろ朝鮮半島問題を手段として日米韓間の軍事協力を強化しようとしている」と懸念も示した。
THAAD問題では、両国の立場の違いが改めて明確になった。
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