今月14日午後9時前、ソウル地下鉄2号線のシンダン(新堂)駅で、構内を巡回していた女性駅員(28)が女子トイレの見回りに入ったところ、凶器を持った男に襲われ間もなく死亡した。男は通報を受けて駆け付けた駅員らに取り押さえられ、殺人容疑で逮捕された。男はソウル交通公社職員(31)で、死亡した女性とは2018年入社の同期。
事件後に現場に設けられた追悼スペースには、献花をする人が後を絶たない。追悼に訪れた女性2人は韓国紙・ハンギョレ新聞の取材に「私たちも別れた恋人が家に来るなどの経験があり、とても不安を感じている。おそらくほとんどの女性が程度の違いはあれど、似たようなストーキング被害に遭った経験があると思う」と話した。また、別の女性は「自分も知らない人にストーキングされた経験がある。ストーキング被害を防ぐ強力な対策が必要だ」と訴えた。
男は死亡した女性に対して2019年からストーキング行為を始め、これまで300回以上も執拗(しつよう)に電話をかけたり、「会いたい」「友達になろう」などとメッセージを送りつけたりしていた。男は昨年10月、この女性を違法に撮影したとして性暴力処罰法違反容疑で逮捕されている。警察は拘束令状を請求したが、裁判所は証拠隠滅や逃亡の恐れがないとして棄却した。女性は1か月間、検察の犯罪被害者安全措置(身辺保護)を受けたが、その後警察は特異事項がないと判断、女性も延長を望まなかったため保護は終了したという。
しかし、その後男が繰り返し女性に接触を要求してきたことから、女性は今年1月、ストーキング処罰法違反容疑で男を告訴。男は在宅起訴された。男は裁判を受けている間に犯行に及んでおり、今月15日には一審判決を控えていた。
また、男は2018年には情報通信網法におけるわいせつ物流布容疑で起訴され、罰金刑を言い渡された前科があったことも分かった。
韓国では、昨年10月に「ストーキング犯罪の処罰等に関する法律」が施行。ストーカー行為に対して警察が警告や禁止命令などの措置を加害者に取ることを定めているが、ストーカー事件は後を絶たない。韓国警察庁によると、警察が相談や通報を受けてストーカー事件として認知した件数は、昨年11月には277件だったが、今年3月には2369件に増えている。
国会立法調査処のホ・ミンスク調査官はハンギョレ新聞の取材に、「現行のストーキング処罰法の接近禁止命令と身辺保護制度の問題点は、『加害者監視手段』が適切に設けられていない点にある。被害者保護は完全に穴が開いていると言っても過言ではない」と話した。現在、ストーカー被害者保護のための措置としては、スマートウォッチの支給や100メートル以内の接近禁止などが取られているが、被害防止に実効性がないとの指摘が出ている。実際、今月17日には、南東部のテグ(大邱)で、「100メートル以内の接近禁止」措置が取られていた男が、ストーカー被害者の自宅を訪れ、呼び鈴を押しながら数十回にわたって電話をかけるなど嫌がらせ行為をし、警察に逮捕された。
ハン・ドクス(韓悳洙)首相は15日、事件について「強い懸念と遺憾を表す」とした上で、女性が被害者となる犯罪に対する法案の見直しを検討するよう関係部署に指示した。
また、尹大統領も16日、記者団に対し「事件は国民に大きな衝撃を与えた。昨年、ストーキング防止法を制定・施行したが、被害者保護が不十分との指摘が多かった。二度とこのような犯罪が起きないよう、法律の見直しを法務部に指示した」と話した。
法務部は先月、ストーカー犯罪で懲役刑が下された者の足首にGPS機能が付いた足輪を装着し、常時行動が監視できるように「電子装置付着等に関する法律」の一部改正案を立法予告している。
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