日韓関係改善に意欲を見せるユン・ソギョル(尹錫悦)大統領は、両国の最大の懸案である元徴用工問題の解決のため、精力的にアクションを起こしてきた。その中で7月に発足させたのが官民協議会だった。外交部のチョ・ヒョンドン第1次官が主宰し、学者や法曹関係者、元外交官などのほか、当初は元徴用工訴訟の原告側の代理人らもメンバーに加わっていた。しかし、外交部が7月、大法院(最高裁)に対し徴用工問題の解決に向けた外交努力を説明する意見書を提出したことに原告側が猛反発。「被害者側との信頼関係を完全に失わせる行為だ」とし、協議会に今後参加しない考えを示した。そのため、3回目以降は原告側の関係者が全員不参加で進められ、先月5日に開かれた4回目が最後となった。
元徴用工訴訟をめぐっては、韓国の大法院(最高裁)が2018年10月に新日鉄住金(現・日本製鉄)、11月に三菱重工業に対し、それぞれ原告への賠償を命じた。両社とも履行を拒んだことから、原告側は韓国内にあるこれら企業の資産の差し押さえと売却(現金化)に向けた手続きに踏み切った。仮に現金化されれば日本政府は制裁措置を取る構えで、そうなれば日韓関係は破綻するとさえ言われている。そのため、現金化は絶対に避けなければならないという認識では日韓両政府とも一致している。
今年4月以降、三菱重工業が現金化命令を不服として行った再抗告についての審理が行われていたが、審議の主審を務めた大法官(最高裁判事)が先月2日に退官した。一部報道ではこの大法官が退官する前に最終判断が出されるとの見方があったが、動きはなかった。退官に伴い日韓両政府が懸念する現金化に向けた最終判断は当面、先送りされる見通しとなった。
同日、パク・チン(朴振)外交部長官(外相)は、元徴用工訴訟の90代の原告2人の自宅を訪れ面会した。朴氏は原告に対し、「責任をもって問題を早期に解決できるよう最善を尽くす」と約束した。
官民協議会は先月5日に終了となったが、外交部のイム・スソク報道官は「非公開で出席者を制限する形の協議会はこれ以降開催されないが、4回目の協議会が意思疎通の終わりではない」と強調。今後、原告側や専門家らを対象に、より広範囲な形で意見収集を続けつつ、韓国政府の解決案を作るための作業に集中するとしていた。
今後のプロセスに注目が集まっていたが、外交部のイム・スソク報道官は先月29日の定例会見で、元徴用工問題の解決策を模索するための公開討論会などを開催する方針を明らかにした。具体的な形式や方法は検討中とし、「両国間の共同利益に合致し、最も合理的な方策を採択できるよう、外交的努力を傾ける。だが、3回目以降の官民協議会のように、仮に原告側が不参加の中で開かれることになれば、大きな成果は望めない。
先月21日(日本時間22日)には、尹大統領と岸田文雄首相がニューヨークで約30分間にわたり懇談した。両首脳は元徴用工問題などを念頭に懸案を解決し、日韓関係を健全に戻す必要性を共有した。両国首脳が一定の時間をかけて協議するのは、2019年12月に当時の安倍晋三首相とムン・ジェイン(文在寅)大統領が行った会談以来、2年9か月ぶりのことだった。
また、ハン・ドクス首相も先月28日、岸田氏と会談。ハン氏は岸田氏に対し「韓日両国は重要な協力パートナーだ。関係を早期に改善するのが共同の利益に合致すると思っている」と述べた。
だが、解決に向けては今後も難しい局面が予想される。韓国紙のハンギョレ新聞は岸田氏の支持率低下に着目した。同紙は世論を二分し、支持率低下の一因にもなった安倍晋三元首相の国葬は先月27日に執り行われたが、今後、物価高騰や旧統一教会をめぐる問題などが打撃になり続けば、岸田政権が危機的状況に陥りかねないとする日本メディアの報道を引用した上で、「こうした状況で韓国と向き合えば、岸田首相の支持率はさらに低下せざるを得ない」と分析。岸田首相が韓国と積極的に向き合う可能性には懐疑的な見方を伝えた。
尹大統領もまた支持率が20%台まで下がっており、野党「共に民主党」からは尹氏の対日政策について「弱腰外交」と批判を浴びている。
こうした状況下、元徴用工問題の解決のために新たに開かれる見通しの公開討論会だが、有意義な議論の場となり得るだろうか。
Copyrights(C)wowkorea.jp 3