元徴用工訴訟をめぐっては、韓国の大法院(最高裁)が2018年10月に新日鉄住金(現・日本製鉄)、11月に三菱重工業に対し、それぞれ原告への賠償を命じた。両社とも履行を拒んだことから、原告側は韓国内にあるこれら企業の資産の差し押さえと売却(現金化)に向けた手続きに踏み切った。仮に現金化されれば日本政府は制裁措置を取る構えで、そうなれば日韓関係は破綻するとさえ言われている。そのため、現金化は絶対に避けなければならないという認識では日韓両政府とも一致している。
日韓関係改善に意欲を見せるユン・ソギョル(尹錫悦)大統領は、元徴用工問題の解決のため、精力的にアクションを起こしてきた。その中で7月に発足させたのが官民協議会だった。外交部のチョ・ヒョンドン第1次官が主宰し、学者や法曹関係者、元外交官などのほか、当初は元徴用工訴訟の原告側の代理人らもメンバーに加わっていた。しかし、外交部が大法院(最高裁)に対し、徴用工問題の解決に向けた外交努力を説明する意見書を提出したことに原告側が猛反発。「被害者側との信頼関係を完全に失わせる行為だ」とし、協議会に今後参加しない考えを示した。そのため、3回目以降は原告側の関係者が全員不参加で進められ、先月5日に開かれた4回目が最後となった。
しかし、外交部は「非公開で出席者を制限する形の協議会はこれ以降開催されないが、4回目の協議会が意思疎通の終わりではない」と強調。原告側や専門家らを対象に、より広範囲な形で意見収集を続けつつ、韓国政府の解決案を作るための作業に集中すると強調した。
元徴用工問題に関し、日本側は1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場を一貫して主張してきた。そのため韓国政府は当初、問題解決のため、韓国政府の予算を使った代位弁済案を検討したが、原告が反対し実現は難しいと判断。他の方策を模索する中で、2014年に設立した公益法人「日帝強制動員被害者支援財団」を使った方法が検討され、現在、実現可能な案の一つとなっているものとみられている。同財団には日韓請求権協定を踏まえた日本の経済支援で恩恵を受けた韓国鉄鋼大手のポスコが、60億ウォン(約6億1000万円)を出資している。当初、ポスコの出資金は補償金として元徴用工に分配されるはずだったが、理事の間で反発が上がり、ポスコが出資の60億ウォンは結局、銀行預金として保管され、財団は利子で活動する方針が決められたという経緯がある。
韓国国会は現在、尹政権の対日政策を「弱腰外交」などと批判を強める最大野党「共に民主党」が多数を占めており、このことが徴用工問題の解決を一層難しくしている側面もあるが、既存の財団を使ったこの方法ならば、新たな法整備が不要なため、国会審議で苦慮する心配はない。日本政府も韓国の財団が代わって支払うのであれば、受け入れる余地があると判断しているとの報道もある。
共同通信が23日、この案を軸に両政府が本格的な協議に入ったことが分かったと報じるや、韓国の主要メディアはこれを引用する形で伝えた。
先月には米ニューヨークで開催された国連総会に合わせ日韓首脳が懇談(韓国メディアは当時「略式会談」と報じた)し、今月11日にはソウルで局長級協議が開かれるなど、元徴用工問題をめぐって日韓の意思疎通が活発化している。明日26日には東京で日米韓3か国の外務次官協議が開かれ、外交部のチョ・ヒョンドン第1次官は日本滞在中、外務省の森健良事務次官と個別に会談する予定。聯合ニュースは、チョ氏が前述の官民協議会を主宰した人物であるため、「森氏との会談は韓日の外交当局間で徴用工問題を協議する意味のある場となるものとみられる」と伝えた。
さらに、来月にインドネシアで開かれる20か国・地域首脳会議(G20サミット)の際には、日韓首脳が対話する可能性もあると報じられている。
元徴用工訴訟をめぐり、韓国の財団が賠償金を肩代わりする案を軸に両政府が本格的な協議に入ったと伝えた共同通信は、「協議を加速させ、早ければ年内も視野に決着を目指す構えだ」と伝えた。
年末にかけての両政府の動きが注目される。
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