今年は3年ぶりに行動制限のない中でハロウィーンの時期を迎えたことから、現場周辺には10万人が集まると想定されていた。梨泰院は路地裏など狭い道が点在する場所でもあり、事故が起きた通りも幅3~4メートルほどの細い坂道だった。狭い通りに多くの人が押し寄せれば危険な状態となることが想定されるが、現場周辺で警備を担当していた警察官はわずか30人ほどにとどまっていたとの情報もあり、警備体制の甘さが指摘されている。
こうした中、韓国紙の朝鮮日報は、今回の事故について報じる各国メディアの中には「韓国でのハロウィーン文化が変容している」と指摘するメディアもあると伝えた。同紙によると、米国の有力紙ウォールストリート・ジャーナルは「韓国のハロウィーンは子供たちがキャンディをもらう日ではない」と報じたと伝えた。
そもそもハロウィーンとは本来どのような祭りなのだろうか。ハロウィーンとは11月1日にキリスト教の諸国聖人に祈りをささげる祝日「諸聖人の日」「万聖節」(All Hallo)の前夜祭(All Hallo Eve)という意味で、欧州が発祥。秋の収穫を祝い、先祖の霊を迎え、悪霊を追い払う祭りで、古代ケルト人が行っていた祭り「サウィン祭」に由来する。古代ケルトの暦では、11月1日が新年とされ、大みそかにあたる10月31日の夜に先祖の霊が戻ってくると信じられていた。しかし、悪霊も一緒にやってきて作物に悪い影響を与えたり、子どもをさらったり、現世の人間たちに悪いことをすると言われていた。そこで人々は身を守るために仮面や仮装をして仲間にみせかけたり、魔除けの焚(たき)火を行ったりしたといわれる。
ハロウィーンのシンボルとしてよく目にするのは、カボチャをくり抜いて目と口と鼻をつくり、中にキャンドルを灯した「ジャック・オー・ランタン」だ。ジャックとは、アイルランドの物語に登場する男の名前だ。最初はカブだったが、米国にハロウィーンが伝わってからカボチャになったとされる。
古代ケルト人が住んでいたアイルランドでは、現在も伝統的なお祝いが続いている。ハリウィーンの夜に「バーンブラック」というドライフルーツが入ったケーキやパンを食べる習慣がある。バーンブラックの中には指輪や硬貨、ボタン、布切れが仕込まれており、それによって運勢を占うという。
米国では子供たちが仮装をして家々を訪ね、日本でもおなじみの「トリック・オア・トリート」(お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ)と唱えて菓子をねだる。米国では子供主体のイベントとの意味合いが強い。
今回、大規模な転倒事故が起こったソウルの梨泰院は、かつて米軍の駐屯地があったことから外国の文化が集まりやすい場所。そのため、もともとハロウィーンやクリスマスの時期に多くのイベントが開かれる場所としても有名だ。事故当日も、外国文化に触れられる梨泰院でハロウィーン気分を味わおうと、多くの人でにぎわっていた。事故について報じた米ウォールストリート・ジャーナルは韓国でのハロウィーン文化の変容を指摘し、「ここ数年で20代を中心にコスチュームを着てクラブに行くイベントとして定着した」などと伝えた。
また、日本では、一部の人たちによる、本来のハロウィーン文化とはかけ離れた行動がここ数年、問題視されている。東京・渋谷では一部の若者が暴徒化し、かつては逮捕者が出たこともある。
2020年にはハロウィーン発祥の地とされるアイルランドの駐日大使がハロウィーンを前に東京・渋谷区の区長を訪ね、ハロウィーンの起源などを説明したことがある。大使は当時、区長に対し「お祝いをしてくれるのはうれしいが、違う形で発展してしまうのは残念。羽目を外してしまうことはどこの国でもあることだが、周りの人にも配慮し、責任ある行動を取って楽しんでほしい」と求めた。
今回、ハロウィーンを前にした週末でにぎわう梨泰院で大きな事故が起きてしまったが、ソウル市内にはハロウィーン気分を味わえる場所は、カンナム(江南)やホンデ(弘大)など他にもある。にもかかわらず、梨泰院に多くの人が集まったのは、前述のように、梨泰院が外国文化を享受できる場所であるからだ。純粋にハロウィーン文化を味わいたいとの思いから梨泰院に繰り出した人たちが多数犠牲となり、胸が痛む。
Copyrights(C)wowkorea.jp 3