事故は先月29日、ハロウィーンを前にした週末でごった返す梨泰院の通りで起きた。現場は幅3~4メートルほどの狭い坂道で、一部の人が転倒した後、次々に折り重なるように倒れる群衆雪崩が起きたものとみられている。事故では日本人2人を含む150人超が死亡した。犠牲者は10代、20代の若者が多い。高校生ら約300人が犠牲となった2014年の旅客船セウォル号沈没事故以来の惨事となった。
韓国中に悲しみが広がっており、政府は今月5日まで「国家哀悼期間」とし、すべての公共機関や在外公館で弔旗が掲揚された。にぎやかだった梨泰院は依然、静けさに包まれており、地元の飲食店主らからは、再び若者らでにぎわう活気ある街に戻るのか不安の声も出ている。
こうした中、韓国紙の東亜日報はこのほど、事故当時、現場にいた高校1年生の声を伝えた。生徒は同紙の取材に「けがはないけれど、精神的なショックが大きすぎて学校に行って、ちゃんと生活できるかわからない」と辛い胸の内を明かした。ニュースやSNSを通じて事故を知った人からも「映像が忘れられない」「事故の写真を見た後から眠れない」と心的不調を訴える人が絶えない。
また、朝鮮日報によると、事故以来、通勤・帰宅ラッシュ時のソウルなどの地下鉄に恐怖を感じる人も出てきているという。同紙の取材に応じた会社員(24)は「梨泰院の雑踏事故のニュースを知ってから、いつものように入る隙間もない地下鉄に乗ったが、急に恐怖を感じた」と話した。
キョンヒ(慶熙)大学精神健康医学科教授で、韓国トラウマ・ストレス学会のペク・ジョンウ会長は「愛する人を失った遺族が一時的なトラウマ被害者。現場にいた負傷者と目撃者、救助人員などまで含めれば、最大1万人までトラウマの心理治療が必要となる」と予測した。その上で「安全な環境で一緒に悲しむことができ、信じられる人々と一緒にいることができるようにしなければならない。政府レベルでの支援と議論が必要な状況」と訴えた。
一方、今回の事故を受け、一部メディアは事故を伝える報道関係者の心のケアへの対応に早急に乗り出した。ニュース専門チャンネルYTNは、事故の取材でPTSDとみられる症状がみられ、治療が必要な社員について、指定の病院で心理カウンセリングなどの治療が受けられるよう支援している。
韓国では、高校生ら約300人が犠牲となった2014年の旅客船セウォル号沈没事故の際もPTSDが指摘された。事故で生存した生徒たちからは、「事故の記憶がよみがえり、亡くなった友人の顔が頭に浮かぶ」との訴えが相次ぎ、不眠などに悩まされる事例が多数報告された。
このほど、韓国紙の東亜日報の取材に応じた、国家トラウマセンター長のシム・ミンヨン氏は「梨泰院の事故とこれまでの災害との最大の違いは『目撃による衝撃』が非常に大きいこと」と指摘した。その上でシム氏は「災害を経験した直後に十分な安定を取り戻すことができず、周囲や社会から支援を受けられなければ、予後が良くない可能性がある。トラウマ反応が生じた後、回復するか、より大きな後遺症で苦しむかは『初期対応』にかかっている」と強調した。また同センターは生存者に投げかける言葉にも注意する必要があることを指摘。「忘れよう」「もっと悪いことが起こったかもしれないのに運が良かった」などといった言葉は禁句とした。
韓国政府は10日から、負傷者や犠牲者の遺族などを支援する「ワンストップ総合支援センター」を開設した。カウンセリングやPTSDの治療も行うという。ただ、今回の惨事では「全国民トラウマ」も指摘されており、大々的な支援体制の構築が求められる。
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