MBCをめぐっては、尹大統領が今年9月に米ニューヨークで開かれた会合に出席し会場から立ち去る際、自身を取り囲む側近らに「くそ野郎らが議会で承認しなければバイデン(米大統領)はメンツ丸つぶれだな」と発言したと報じた。発言中の「くそ野郎」は米議員を指すと指摘され、韓国野党などは当時「国の品格が崩れた」などと尹氏を強く批判した。一方、大統領室は発言について、バイデン氏や米議会のことを言ったものではないと否定し、「うそで同盟国を仲たがいさせることこそ国益を自ら損ねる行為だ」と反論。尹氏の発言は米議会やバイデン氏に言及した言葉ではなく、会合でグローバルファンドに拠出すると米国に約束した1億ドル(144億円)を、韓国の野党が吹っ飛ばしたら赤っ恥をかくだろうとの趣旨の発言だったと釈明した。
会合は、韓国の放送局ではMBCとKTVが代表取材しており、問題視されている発言の場面はMBCが字幕付き(「くそ野郎」の部分は放送禁止用語のため「××」と表示した)で最初に報じた。インターネット上などでもこの場面の映像が拡散したほか、日本や米国のメディアも報じた。
これに、大統領室は「MBCの最初の報道のように米国を指す言葉だったら韓米関係に影響を与える可能性があるだけに、より徹底した確認が必要だが、MBCはそうした確認過程を省略し、恣意(しい)的に刺激的な字幕を被せて報じた」と当時MBCを非難。尹氏の発言を歪曲して報じ、米韓の同盟関係に影響を与えたとして、MBC側に経緯の説明を求める公文書を送った。これに対し、MBCは「最大限配慮して動画を上げ、発言内容をそのまま伝えた」とした。
尹氏はインドネシアのバリ島で開かれるG20(主要20か国)首脳会議などに出席するため16日までの日程で東南アジアを歴訪した。しかし、出発2日前の9日、大統領室はMBCの記者の大統領専用機への同乗を認めない方針を明らかにした。大統領室がMBCに送った通知では「専用機への同乗は、外交、安全保障に関する取材の便宜を図るために提供しているものだが、最近、MBCが外交関連で歪曲し、偏った報道を繰り返したことを考慮し、MBCには取材に便宜を提供しないことにした」とした。また、「MBCは字幕の捏造や、同盟国との関係に影響を及ぼしかねない歪曲した報道をしながらも、是正措置を取っていない。今回も歪曲し偏った報道を行う可能性があり、それを防ぐためのやむを得ない措置だ」と強調した。
これに対しMBCは、「特定のメディアに対する大統領専用機の搭乗拒否は、軍事独裁時代にもなかった前代未聞のこと。メディアの取材を明確に制約する行為」と反発。11日、憲法裁判所に訴えを起こすと発表した。韓国記者協会、放送記者連合会、韓国勢象記者協会、韓国PD連合会、全国言論労働組合の5団体も緊急声明を出し、「尹政権が納得できる措置を取らない場合、今回の事態を言論の自由と民主主義に対する重大な脅威と規定し、全面戦も辞さない」とした。
MBCは韓国全土を放送エリアとするテレビ・ラジオ兼営放送局。1961年12月に開局し、69年にテレビ放送事業に参入。現在17の地域系列局からなる全国ネットワークを構築している。尹政権に厳しい報道を行っていることでも知られる。
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