<W解説>韓国の前大統領、金総書記から贈られた犬を返還=「南北融和の象徴」が政争に巻き込まれる結末(画像提供:wowkorea)
<W解説>韓国の前大統領、金総書記から贈られた犬を返還=「南北融和の象徴」が政争に巻き込まれる結末(画像提供:wowkorea)
韓国のムン・ジェイン(文在寅)前大統領が、2018年9月の南北首脳会談の際、北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記からプレゼントされた犬を韓国政府に返還した。変換されたのは北朝鮮原産の犬「豊山犬」ひとつがいと、その子1匹。これまで韓国南東部キョンサンナムド(慶尚南道)・梁山(ヤンサン)市の文氏の私邸で飼育されてきた。

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 つがいの名は2017年11月生まれの雄「ソンガンイ」と17年3月生まれの雌「コミ」で、当時の韓国メディアの報道によると、このつがいは3キロの餌と共に南北軍事境界線上にあるパンムンジョム(板門店)を通過し、検疫の手続きを終えて大統領府に送られた。大統領府の報道官は当時、「平壌で首脳会談が行われた9月18日夜の晩さん会で、金正恩総書記とイ・ソルジュ(李雪主)夫妻が文大統領夫妻に豊山犬のつがいの写真を見せながらプレゼントを申し出た。今回、その申し出が実現した」と豊山犬が贈られることになった経緯を話した。李夫人は「この豊山犬のつがいには血統書もある」と文夫妻に説明したという。「ソンガンイとコミは大統領府に到着した直後に敷地内を散歩したが、まだ慣れていないようだ」などといった大統領府の関係者の当時のコメントからは、2匹が大統領府に温かく迎え入れられ、かわいがられている様子が伝わってくる。

 豊山犬は北朝鮮の豊山郡(現・金亨権郡と豊西郡)原産の狩猟用犬種。日本犬とは血統的に近く、紀元前から存在していたとされる。猟犬として飼われていたが、徐々に数が減り、1942年、当時朝鮮半島を統治していた朝鮮総督府が天然記念物に指定した。戦後、朝鮮が日本の統治から離れるクァンブク(光復)と共に国宝に指定されたほか、第35代重要天然資源にも指定され、保護が行われるようになった。

 文氏に贈られたコミとソンガンイはその後韓国で子犬7匹を生み、そのうち6匹は他の地域に引き取られた。残る1匹の「ダウニ」と親犬のコミ、ソンガンイが長く大統領府(青瓦台)で飼われ、「南北融和の象徴」的存在だった。文氏はこれらの犬を育てている姿をSNSなどを通じて度々公開してきた。

 文氏が今年5月に大統領を退任した後も、文氏の私邸で飼育されてきた。しかし、韓国の法律ではこれらの犬は国の所有物であり、本来は大統領府に返還されなければならない。だが、文氏の事務所は、任期の終わりに3頭の飼育を文氏に委任する合意書が結ばれたと主張している。

 一方、ユン・ソギョル(尹錫悦)政権は餌代や管理費用、飼育人の人件費など月250万ウォン(約26万円)程度を政府が支出するとの規定が政権移行前に設けられたことに反発。「義務ではなく自発的な意思で飼うと言っていたのに、なぜ予算支援が必要なのか」「飼育係の人件費まで予算支援することが国民の感覚とずれていないか」などといった疑問の声が多数上がった。この「犬管理費予算支援」案は半年たった今も執行されていない。

 このため、文氏側は今月5日までにこれら豊山犬3頭を国に「返却」する意向を韓国政府側に伝えた。韓国では大統領が受け取った贈り物は、たとえ動物でも植物でも「大統領記録物」とされ、国が管理するのが原則となっている。大統領府の関係者は、3頭の今後について「大統領記録物を管理する政府の担当者が判断することになる」としている。

 かつて「南北融和の象徴」だった犬が国内の政争に巻き込まれた形で、ネット上では「犬は家族。金銭問題があるからと言って手放すなんて」「できることなら自分が引き取りたい」などといった声が上がっている。また、与党「国民の力」の関係者からは「南北の政治ショーに利用された犬がかわいそうだ」との批判が出ている。

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