元徴用工訴訟をめぐっては、韓国の大法院（最高裁判所）が2018年に三菱重工業と日本製鉄（旧新日鉄住金）に対し、原告の元徴用工らへの賠償を命じた。しかし、賠償問題に関し、日本としては1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場で、賠償の履行に応じていない。そのため、原告は日本企業の資産を現金化し判決を履行させる手続きを進めている。しかし、仮に現金化がなされれば日本政府は制裁措置を取る構えで、そうなれば日韓関係は破綻するとさえ言われている。そのため、現金化は絶対に避けなければならないという認識では日韓両政府とも一致している。
昨年5月、日韓関係改善に意欲を示すユン・ソギョル（尹錫悦）大統領が就任し、尹政権は元徴用工訴訟問題の解決に向けさまざまなアクションを起こしてきた。外交部は解決策を模索し続けた結果、韓国政府の傘下で、元徴用工らへの支援を行っている「日帝強制動員被害者支援財団」が元徴用工訴訟の被告である日本企業の賠償金を肩代わりする案を解決の「有力案」とした。
この日の討論会では、外交部からこの案の概要が示された。韓国政府がこの案に関して公の場で説明するのはこの日が初めてだった。外務省のアジア太平洋局のソ・ミンジョン局長は、昨年4回にわたって開いた官民協議会の議論や日韓協議を踏まえてまとまった方向性を提示。この中でソ氏は、被告となった日本企業による賠償や日本側の謝罪を期待するのは難しいという意見や、第三者が原告への支払いを肩代わりすることも可能という指摘もあったと述べた。原告側は被告企業が財団への資金を拠出することを「最低ライン」として求めているが、これについてソ氏は「日本の呼応をどの程度確保できるか、駆け引きしつつ緊密に協議している」と述べるにとどめ、可否については明言しなかった。
一方、原告側の弁護士は、政府が検討している解決案は「日本側が何も負担しない案」だとして反対の立場を示し、「弁護団、支援団体と、外交部との信頼関係は完全に破綻している」とした。
討論会に先立ち、会場の国会前では、多数の市民団体でつくる「歴史正義と平和な韓日関係のための共同行動」（韓日歴史正義平和行動）と、最大野党「共に民主党」、野党「正義党」の議員らが会見を開いた。政府が示した解決案について「司法府の判決を行政府が無力化する措置で、三権分立に反し、憲法を否定するもの」とし、「日本の圧力に屈服し、韓国の司法の主権を放棄するも同然だ」と批判した。
また、討論会の最中も、観覧者が大声で反発して騒然とする場面もあり、韓国政府が示した案には根強い世論の反発があることをうかがわせた。
韓国・聯合ニュースは「専門家の間では意見が分かれている」とし「日本の謝罪と資金拠出を現実的に期待できない状況では『重畳的債務引き受け』が解決策になるとの意見もあれば、政府が解決策を急ぎすぎているとの声も上がる」と伝えた。
一方、日本政府は元徴用工問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みという立場で一貫してきた。外務省幹部は産経新聞の取材に「日本の考えは揺るがないと一貫して伝えている。韓国にやり切ってもらうしかない」と語った。
松野博一官房長官は12日、韓国政府がこの日示した案について「コメントは差し控えたい」と論評を避けた。その上で、昨年11月の日韓首脳会談で懸案の早期解決を図ることで一致していると指摘し、「日韓関係を健全な形に戻し、さらに発展させていくため、韓国政府と緊密に意思疎通していく」と述べた。
尹政権としては元徴用工問題を解決して日韓関係の正常化を急ぎたい考えで、この日の討論会を最後に解決策の正式発表へ進みたい考えだ。しかし、原告側の反対は根強いものがあり、今後、世論を取りまとめることができるかは不透明だ。原告の納得がないまま強引に進めれば、尹政権への反発が強まる可能性があり、解決にはまだひと山、ふた山ありそうだ。
Copyrights(C)wowkorea.jp 3
