GSOMIAは日韓両政府が安全保障に関する情報を共有・保護することを目的に2016年11月に締結した。正式の名称は「秘密軍事情報の保護に関する日本国政府と大韓民国政府との間の協定」。日韓の防衛当局が持つ映像や文書、技術を「秘密軍事情報」と定義し、主に北朝鮮の核・ミサイルに関する情報を扱う。協定締結前は米国を介して両国の情報を共有していたが、締結後は特設のやり取りが可能になった。韓国とは2012年6月に協定を締結しかけたが、直前になって韓国側の都合で延期になった。2016年に交渉が再開され、同年11月に締結した。協定は1年ごとに自動更新される仕組みで、破棄する場合は更新期限の90日前にあたる毎年8月24日までに相手国へ通知する義務がある。
GSOMIAをめぐっては、日本政府が2019年7月に対韓輸出管理強化を発表したことを受け、韓国政府がこれに対抗する形で同年8月、日本側に破棄を通告した。日本政府が対韓輸出管理強化を打ち出したのは、日韓最大の懸案である元徴用工訴訟問題で、韓国の最高裁判所が日本企業に賠償を命じる判決を出したことに対抗するためだった。
韓国政府によるGSOMIA破棄の通告は、その後、米国の強い要求などを受けて同年11月、効力が停止された。しかし、その後も、当時のムン・ジェイン(文在寅)政権は「韓国の判断次第でいつでも破棄できる」との立場を取り続け、現在までGSOMIAは不完全な状態で効力が維持されている。
ユン・ソギョル(尹錫悦)大統領は、昨年の大統領選にあたって外交安全保障分野の公約を打ち出す中でGSOMIAに言及。「安全保障のため情報共有には積極出来であるべきで、とても重要な協定だ」との認識を示した。その後、尹政権が発足し、外交部(外務省に相当)のパク・チン(朴振)外相はGSOMIAについて、北朝鮮の脅威に対抗するために韓国と日本、米国の間で緊密な情報共有が行われる必要があるとの認識の下、「できるだけ早く正常化したい」との認識を示した。昨年7月に開かれた日韓外相会談で朴氏は、林芳正外相とGSOMIAについても協議した。
昨年、北朝鮮がミサイル発射を繰り返す中で、日韓の情報当局間で異なる情報分析が示されるということがあった。昨年9月、北朝鮮が北西部のピョンヤンプクト(平安北道)・テチョン(泰川)付近から日本海に向けて短距離弾道ミサイル1発を発射した際、韓国側は「飛行距離は約600キロ、高度は約60キロ」と発表した一方、日本の防衛省は「最高高度は50キロ程度で、通常の弾道軌道なら飛んだ距離は約400キロメートル」と説明。飛行距離の推定には200キロも違いがあった。
これに先立ち、6月に北朝鮮が複数の地点から短距離弾道ミサイルを発射した際には、発射数について韓国の合同参謀本部は「4地域から8発」と発表したのに対し、日本の防衛省は「少なくとも6発」とした。この5日後、日本側は「6発のほかにさらに2発を発射した」と訂正した。
また、5月に北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)と短距離弾道ミサイルを発射した際には、韓国合同参謀本部は「3発発射した」と発表したのに対し、日本側の発表は「少なくとも2発」と、発射数について曖昧な表現が用いられた。
これらの事例は、日韓間での安全保障に関する情報の共有が不十分であることを印象付け、韓国メディアはGSOMIAの正常化を急ぐべきだと指摘した。
11日にソウル市内のホテイルで開かれた国際会議でも、出席した米国の専門家がGSOMIAについて言及した。米国のシンクタンク、ブルッキングス研究所のアンドリュー・ヨ韓国シニアフェローは文政権で有名部実化したGSOMIAについて「今後は強化して情報を迅速かつ正確に共有すべきだ。北朝鮮の攻撃があった場合でも、これ(GSOMIA)を通じて連合軍の増員を適切に調整でき、また、民間人も効率的に避難できるようになるだろう」と指摘した。また同研究所のロバート・アインホン研究員は「韓日両国の緊張関係が影響して3か国による協力は遅れた」としながらも「尹大統領と岸田文雄首相はこの緊張関係を克服した」と評価。「3か国の防衛協力は北朝鮮抑止のため非常に重要だ」と強調した。
GSOMIA問題の最初の発端となった元徴用工訴訟問題は、韓国政府が解決案を公表するなど、尹政権が発足してから解決に向け前進している。一筋縄ではいかないこの問題が解決すれば、GSOMIAもおのずと正常化することになるだろう。
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