元徴用工訴訟をめぐっては、韓国の大法院(最高裁判所)が2018年10月、日本製鉄に対し、原告の元徴用工に対して賠償を命じた。同年11、12月には三菱重工業などに対し、勤労挺身隊に動員されて被害を受けたと主張する原告の韓国人への賠償を命じた。しかし、日本としては戦時中の賠償問題に関しては1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場で、被告の日本企業は履行を拒んだ。このため、原告は日本企業の韓国内資産に対する差し押さえを要求し、裁判所はこれを承認。日本製鉄の韓国内資産であるPNR(韓国の鉄鋼大手ポスコと日本製鉄の合弁会社)の株式や、三菱重工業が韓国に登録した商標権と特許権が押収された。現在、これら押収された日本企業の資産を、現金化(売却など)する手続きが進んでいる。
仮に現金化されれば日本政府は制裁措置を取る構えで、そうなれば日韓関係は破綻するとさえ言われている。そのため、現金化は絶対に避けなければならないという認識では日韓両政府とも一致している。
昨年5月、日韓関係改善に意欲を示すユン・ソギョル(尹錫悦)大統領が就任し、尹政権は問題解決に向けさまざまなアクションを起こしてきた。解決策を模索する中で、元徴用工らへの支援を行っている韓国の財団が被告の日本企業の賠償を肩代わりする案を有力案とし、12日の公開討論会で公表した。しかし、原告側の弁護士は、政府が検討している解決案は「日本側が何も負担しない案」だとして反対の立場を示した。民族問題研究所など610の市民団体でつくる「歴史正義と平和な韓日関係のための共同行動(韓日歴史正義平和行動)」などは26日、政府の対応や政府が公表した解決案を改めて批判した。
韓国の放送局MBCが18~19日に行った世論調査では、政府が公表した解決案について反対は約64%に上り、賛成の約23%を大きく上回った。また、公共放送KBSが18~20日に行った世論調査では、政府案について「被害者の意見反映が不十分」との回答は59.6%で、「韓日両国の関係回復のために同意する」(33.3%)を大きく上回る結果となった。
こうした中、外交部(外務省)のパク・チン(朴振)長官は26日、放送局のSBSのニュース番組に出演し、元徴用工問題の解決策について「日本企業が歴史認識のもと、自発的に誠意ある呼応をすることが望ましいと考えており、日本政府とも協議している」と述べた。また、「日本政府が1998年に、当時のキム・デジュン(金大中)大統領と小渕恵三首相が発表した『韓日共同宣言』の精神を継承し、韓日関係を改善させていくことが必要だ」と強調した。同宣言では、両国における緊密な友好協力関係を高い次元で発展させ、21世紀に向けた未来志向的な関係を構築することで認識を共有している。この宣言はその後の日韓交流の礎となり、経済や文化、人的交流は活発化した。尹統領もこの宣言を支持している。
原告側の強い反発と厳しい世論で、今後も難航は避けられそうにない状況だが、日韓の当局間の意思疎通は滞っていない。30日には外務省の船越健裕アジア太州局長と韓国外交部アジア太平洋局のソ・ミンジョン局長がソウルで協議する。両氏は今月16日にも東京で協議を行っている。
また、共同通信によると、前出の韓国政府傘下の日帝強制動員被害者支援財団が来月21~23日に元徴用工の遺族ら約400人が参加する討論会を開く。韓国政府としては、問題解決に向け、関係者から幅広く意見を聴取したい考えだ。しかし、原告側からは政府の一連の対応について、結論ありきで内容を自分たちに伝達するだけだとの批判も上がっており、問題解決につながる議論がなされるかは不透明だ。
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