インターネットやスマートフォンの普及が進む韓国では、ポータルサイトのコメント欄やSNSを通じた著名人への誹謗中傷が後を絶たない。2020年7月には、国内のプロバレーボールリーグのVリーグでプレーしていたコ・ユミン選手が自ら命を絶った。コ選手を追い詰めたのはネット上での悪質な書き込みも一因ではないかとみられている。
コ氏の死を受け、NAVERは直後に自社が運営するポータルサイトのスポーツニュースのコメント欄の暫定廃止を発表した。同社は当時「モニタリングと技術を強化したが、悪質なコメントの内容とそれによって傷つく選手の苦痛が看過できるレベルを超えたと判断した」と説明した。NAVERと競合するカカオも同じく同社の運営するポータルサイト「DAUM(ダウム)」で同様の措置を取った。
これに先立ち両社は、芸能ニュースで既にコメント欄を廃止していた。悪質な書き込みを苦に命を絶った芸能人が相次いだことを受けての措置だった。
両社は悪質なコメントによる弊害をなくそうと、AI(人工知能)を導入するなどして排除に努めてきた。しかし、コメント欄は日々のニュースに対する共感や批判、反発など、読者がそれぞれどんな意見を抱いているのか推し量ることができる利点もある。両社とも芸能、スポーツ以外のニュース記事には現在もコメント欄を残していることからも、コメント欄の利点を大事にしながら対応を模索していることがうかがえる。
NAVERが2021年の東京五輪の際、開設した五輪特集ページに競技を見ながらリアルタイムに応援のコメントが書き込める機能を設けたのも、前述のような利点を生かして国際的なスポーツの祭典を盛り上げたいとの思いからだったのだろう。しかし、そうした思いとは裏腹に、コメント欄には韓国選手の対戦相手への差別的なコメントが相次いで投稿される事態となった。
アーチェリー女子個人準々決勝の中継の際には、韓国代表のアン・サン(安山)選手の対戦相手であるインド代表の選手に向け「カレー女、ため息ついているね」などとからかう投稿が確認されたほか、試合終了まで「カレー」のワードが継続して書き込まれた。
また、日本人選手が登場する試合の中継では、韓国語で日本人を蔑視する言葉「チョッパリ」がコメント欄に上がり続けた。
NAVERは、差別的な表現が含まれたコメントについてAIで検知して閲覧できなくする措置を取ったが、ネット中継のコメント欄はネット記事の下にあるコメント欄とは違い、書き込まれてもすぐに次の新しいコメントに押し上げられては画面から消えていくため、対処を難しくした。
昨年12月、韓国の歌手兼女優のペ・スジについてポータルサイトに卑猥(ひわい)なコメントをしたとして侮辱罪に問われた40代の男の裁判で、大法院(最高裁)は2審の無罪判決を破棄し、ソウル北部地裁に差し戻した。男は2015年10月にポータルサイトのコメント欄にペ・スジについて「ただの国民のホテル女」などと書き込んだとされる。大法院は「表現の自由を根拠に、侮辱罪の構成要件を満たさないとか、社会常識に違反しないなどと判断するのは慎重を期するべきだ」とし、事件を差し戻した。一方、男は公判で「ネット上で許容される範囲を超えていない」などとして無罪を主張していた。
ネット上での悪質な書き込みがなかなかなくならない中、韓国インターネット自律政策機構(KISO)は昨年12月、ネット上の罵詈雑言・卑猥語などの書き込みを制限できるようにするシステムを開発したと明らかにした。システムはNAVERとカカオがそれぞれ提供した「罵詈雑言データベース」を統合して開発したという。統合することで約60万件のデータベースが構築された。これまで個別業者がこうしたシステムを開発するに当たっては、独自にデータベースを構築する必要があり、多額の費用がかかっていた。
NAVER、カカオも前述のようにそれぞれ独自に罵詈雑言や卑猥語のフィルタリングを進めており、AIによる「探知・遮断プログラム」を導入してからは、悪質コメントが減少するなど効果があらわれてきているという。
今回、KISOが開発したシステムは韓国の二大ポータルサイトがそれぞれ提供したデータを統合して構築されたものであるだけに、どのような結果が見られるのか注目される。
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