「安全速度5030政策」は2021年4月から都市部の道路で適用された政策で、一般道路の制限速度は時速50キロに、住宅街などの生活道路では時速30キロに自動車の制限速度が引き下げられた。
それまで韓国では、都市部の一般道の制限速度は片側1車線の道路が時速60キロ、片側2車線以上は時速80キロだった。生活道路は子ども保護区域は時速30キロに制限されていたが、住民保護区域は時速40~50キロと一定でなかった。
韓国政府は1995年の「子ども保護区域指定」や97年の「無人速度超過取り締まりカメラ導入」、2001年の「運転中の携帯電話使用禁止」、13年の「DMB(日本のワンセグに相当)視聴禁止」など、さまざまな交通政策を行い、一定の成果を上げてきた。しかし、OECD加盟国の中でも韓国の交通事故死者数は多く、当時のムン・ジェイン(文在寅)政権は死者数を減らすには歩行者が犠牲となる事故を減少させることが喫緊の課題と判断。「歩行者中心の交通文化をつくろう」との趣旨のもと「安全速度5030政策」を施行した。
施行にあたり、当時の警察庁長は「人の命と安全を確保することが何よりも重要だとの考えからこの制度を導入した。多くの国で時速10キロ引き下げることで20~40%歩行者の死亡事故が減り、制限速度を下げたことによる所要時間の増加は週末が5~7分、平日のラッシュアワーでも2~3分ほどしかない」と制度の意義を強調した。
この政策に、当時、市民らからは「歩行者の立場からすれば、はるかに安全になった」「制限速度が低くなればドライバーの意識が高まり、交通事故が減るだろう」などと肯定的に受け止める声が上がった一方、「車があまり通らない時間帯にも制限速度に従ってゆっくり走行することに何の意味があるのか」「スポーツカーならば、アクセルを1回踏んだだけで速度違反になってしまう」などと不満の声も上がった。
施行に伴い、当時、警察はソウル市や釜山市などで取り締まりに着手したが、周知不足により「安全速度5030政策」を知らない人もいたほか、速度制限表示板の整備が完了していない地域もあり、準備不足が指摘された。
政策が施行された2021年の交通事故死者数は前年比5.4%(165人)減の2916人で、統計を取り始めた1970年以降、初めて3000人を下回った。当時はコロナ禍真っただ中で、人の移動が減ったことも影響したとみられるが、警察が昨年初めに発表した研究結果によると、この政策により、21年の交通事故による死者は一般道で7.7%減少したのに対し、最高速度が制限された道路では27.2%減少した。
しかし、警察庁は今月14日、都市部で自動車の制限速度を引き上げると発表。「安全速度5030政策」は全面的に見直されることになった。今回の見直しでは、歩道者道路を横断する可能性が低かったり、橋やトンネルなど歩行者がいない区間で制限速度を時速50キロから60キロに引き上げることを決めた。幹線道路の子ども保護区域でも、時間帯によって制限速度が変わる「弾力的速度制限」を推進する。
今回、政策が見直された背景について、韓国の聯合ニュースは「尹大統領の当選後、新政権への移行を準備する政権引き継ぎ委員会は昨年4月、5030政策を緩和して全国的に制限速度を引き上げると発表。警察も政府の政策に足並みをそろえる形となった」と解説した。尹大統領は大統領選の候補時から政策の見直しを公約に掲げていた。尹氏は政策施行に伴う信号の体系の改編がないことに加え、歩行者が通行不可な道路にも速度制限があるなど、実際の道路状況が考慮されていないと制度の問題点を指摘していた。また、古いディーゼル車の場合、低速で走行するとエンジンの温度低下により、ばい煙低減機能が低下するなど、環境的な影響も考慮する必要があると主張していた。
尹氏の公約通り、5030政策は見直されることになったが、2021年の交通事故死者数は過去最低となったとはいえ、人口10万人当たりの死亡者数は5.6人で、OECD加盟国の平均である5,2人を上回っており、依然として高い。さらなる改善が求められる中、制限速度を引き上げる政策はそれに逆行するものではなかろうか。
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