尹氏は先月17日、日韓議員連盟の次期会長に内定している菅氏らと東京都内のホテルで会談した。関係再構築に向け、両国が連携を強化していくことで一致した。菅氏らは、元徴用工訴訟問題で韓国政府が示した解決策や、前日に行われた尹氏と岸田文雄首相との日韓首脳会談の結果を「高く評価する」と伝えた。また、「インバウンド推進や人的交流を深めることで(日韓関係を)盛り上げたい」と述べた。これに対し尹氏は首脳会談について「日韓正常化に向けて大きな進展があった。人的交流と両国の理解が深まり、正常化が促進されることを望んでいる」と応じた。
福島第1原発の処理水の海洋放出についても話に上がり、菅氏らは「国際原子力機関(IAEA)と連携して計画を進めている」と説明。尹氏は「科学的な分析が必要だ」と指摘した。また、共同通信によると、尹氏はこの会談の席で、処理水の放出について韓国の国民の理解を求めていくと表明したという。
処理水の海洋放出計画をめぐって、韓国は強く反対している。日本政府は2021年4月、福島第一原発の処理水を海洋放出する方針を閣議決定した。韓国政府は当時「日本政府からの事前協議がなく、日本側が一方的に決定したもので遺憾だ」と批判した。また、ほとんどの韓国メディアは日本政府の方針を批判的に報道。関連する記事では処理水を「汚染水」と表現した。漁業関連団体からも激しい反発が起きた。日本産の海産物に不安が高まり、韓国産と偽って流通させていたとして韓国の水産業者が摘発されたこともあった。IAEAなどの場でも批判を展開。昨年9月のIAEA年次総会では韓国の代表が演説し、「原発事故で発生した汚染水が海に放出される史上初のことになる」と述べて懸念を示し、科学的に安全な方法で行うことなどを求めた。日本政府と東京電力は安全性を繰り返し強調しているが、韓国政府は処理水の海洋放出について「科学的で客観的な根拠に従い、合理的に、透明性を持って行わなければならない」としている。
また、韓国では福島第1原発事故を受け2011年9月から、福島・宮城・岩手・青森・栃木・群馬・茨城・千葉の8県産の水産物の輸入を禁止している。昨年3月に東京大学の関谷直也准教授(災害情報論)が実施し、今年2月に発表されたアンケート調査の結果では、福島県産食品が危険だと考える人が韓国では93%にも上ったことが分かった。関谷准教授は韓国を含む近隣国では事故直後の情報や印象がそのまま残っており、未だに福島県や日本に対して根強い不安があると指摘。「海外では当初は大きく報道されるが、それ以降は情報が伝わりづらくなってしまう。処理水だけではなく、今の福島の現状を国や自治体、マスコミなどがきちんと伝えていくことが大事だ」と話した。
そんな中、韓国海洋技術科学院と韓国原子力研究院の共同研究チームは2月、南部のチェジュ(済州)島で開催された韓国防災学会の学術大会で、海洋放出された処理水がどう拡散するかのシミュレーション結果を発表。海洋放出された場合も大きな影響はないとの結論を導き出した。しかし、韓国ではこの結果を持ってしても、依然、懸念の声は強く、市民団体は「日本政府の主張を鵜呑みにしたものだ」として、さらなる詳細な検証を求めている。
尹大統領が先月17日の菅氏らとの会談で、処理水の海洋放出について韓国国民の理解を求めていくと表明したとの一部報道に、会談に同席した韓日議員連盟のチョン・ジンソク議員(与党「国民の力」)はSNSを通じて「報道は全く事実ではない。こうした内容を報じたメディアに遺憾の意を表す」と否定した。大統領室も「尹大統領は首脳会談期間中、日本側関係者と会談した席で、客観的かつ科学的な方法、国際基準に適合する検証、その過程に韓国の専門家が参加しなければならないという三つの条件を明確に示した」と強調した。
海洋放出をめぐっては韓国野党が争点化を図っているだけに、尹政権は世論の動向に神経をとがらせていることがうかがえる。
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