北朝鮮との間には、韓国統一部(部は省に相当)が平日朝夕に南北共同連絡事務所を通じて定時連絡する通信線と、韓国軍が休日も含めて毎日朝夕に使う軍通信線が設けられている。
統一部は今月7日、両方の通信線で北朝鮮が連絡に応じなかったことを明らかにし、「われわれの区間の通信線を点検した結果、異常はなかった。北側区間での通信線の異常の可能性などを含めて状況を見守る」とした。
しかし、7日午前以降、北朝鮮はいずれの通信線の定期通話にも応答しない状況が続いている。南北共同連絡事務所を通じた連絡が行われなかったのは昨年10月4日以来、約半年ぶり。この時は午前中に不通となったが、午後には通常通りの定時連絡が行われ、北朝鮮側の技術的な問題で通信回線が一時的に作動しなかったと推定された。これ以前にも北朝鮮は2020年6月、韓国の脱北者団体による北朝鮮向けビラ配布を理由に通信回線を遮断し、翌年7月に復旧。約13か月、通信回線は途絶えた。翌8月には米韓合同軍事演習の事前演習に反発して再び不通となり、約2か月後の10月に定時連絡が再開された。
韓国統一部のクォン・ヨンセ長官は11日、この日時点で5日連続で北朝鮮から応答がないことに「一方的で無責任な態度に強い遺憾を表明する」などとする声明を発表。自らを孤立させる対応だと警告した。一方、声明でクォン氏は連絡に応じるよう促す文言は盛り込まなかった。このことについて聯合ニュースは「北朝鮮にすがりつくことはしないという意思の表れと受け止められる」と分析している。統一部長官の名義で声明が出されるのは2013年7月以来、約10年ぶり。
北朝鮮が、連絡に応じなくなった理由は確認されていないが、韓国がこのほど米国と行った合同軍事演習や、韓国政府の北朝鮮人権報告書公開などに反発しての対応とみられている。
米韓両軍は先月13日から23日まで、朝鮮半島有事を想定した大規模な合同軍事演習「フリーダムシールド(自由の盾)」を実施した。11日間の演習実施は過去最長だった。ユン・ソギョル(尹錫悦)政権発足後初めての春の定例演習で、約5年ぶりに大規模な野外機動訓練を実施。核・ミサイル開発が急速に進む北朝鮮への圧力を高めた。演習開始の前日、北朝鮮は潜水艦から巡航ミサイル2発を発射。米韓両軍をけん制する動きを見せた。
また、韓国統一部は先月31日、脱北者500人余りの証言を基に作成した北朝鮮人権報告書を初めて一般に公開した。報告書は約450ページにおよび、▲市民的・政治的権利▲経済的・社会的・文化的権利▲社会的弱者▲政治犯収容所・韓国軍捕虜・拉致被害者・南北離散家族の4章からなる。公開処刑、拷問、恣意(しい)的な逮捕など、地域社会や収容所などで国家主導の人権侵害が横行している様子を詳しく取り上げた。2017年から2022年までに脱北した人たちの証言に基づいてまとめた。
報告書は「公権力による恣意的な生命剥奪が行われている」と指摘。北朝鮮における深刻な人権侵害の状況が改めて浮き彫りとなったが、北朝鮮が敏感に反応する人権問題を取り上げたことは、今後、いつの日か南北対話を再開しようとする際、重しになりかねないとの指摘も出ている。
前述のように、通信回線の遮断は北朝鮮がこうしたこと反発したことによるものとみられているが、統一部によると、今回のように南北共同連絡事務所と軍通信線の両方が1日以上、完全に不通となったケースは初めてという。韓国軍の関係者は、韓国紙の東亜日報の取材に、「今後、さらなる挑発の可能性も排除しておらず、関連の動きを注視している」と話した。
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