＜W解説＞福島原発処理水の海洋放出、見えにくい韓国内の真の世論

韓国紙の朝鮮日報は、東京電力福島第一原発の処理水海洋放出が今夏にも始まる見通しとなる中、写真共有アプリのインスタグラムには、日本の各地を旅行に訪れた韓国人が寿司を堪能して記念撮影した写真が簡単に見つかることを指摘した。一方で、韓国内では消費者の不安の高まりから魚離れや塩の買い占めが起きていると報じられている。ある調査では韓国国民の83.3%が処理水の海洋放出に「反対」と回答した。この問題に対する韓国の真の世論が今一つ掴みにくい状況となっている。

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海洋放出計画をめぐっては、日本政府が2021年4月、放出の方針を閣議決定した。韓国政府は当時「日本政府からの事前協議がなく、日本側が一方的に決定したもので遺憾だ」と批判した。

ほとんどの韓国メディアは日本政府の方針を批判的に報道。関連する記事ではこれまで一貫して処理水を「汚染水」と表現している。漁業関連団体からも激しい反発が起きた。日本産の海産物に不安が高まり、韓国産と偽って流通させていたとして韓国の水産業者が摘発されたこともあった。

日本政府と東京電力は安全性を繰り返し強調しているが、韓国政府は処理水の海洋放出について「科学的で客観的な根拠に従い、合理的に、透明性を持って行わなければならない」としている。

先月7日に開かれた日韓首脳会談で、岸田文雄首相とユン・ソギョル（尹錫悦）大統領は、韓国の専門家らによる視察団を日本に派遣し、現地を視察させることで合意した。これに基づき、韓国は原発や放射線の専門家ら計21人で構成する視察団を編成し、先月21日に来日。福島第一原発を訪れ、処理水を薄める設備や海への放出に使う設備のほか、処理水に含まれる放射性物質を分析する施設を確認するなどした。また、経済産業省や原子力規制委員会の担当者らと会合も行った。

視察団は先月31日、ソウル市内で記者会見し、視察結果について発表した。視察団の団長を務めた韓国原子力安全委員会のユ・グクヒ委員長は「設備が計画通り設置されていることが確認でき、必要な処理水のデータも入手できた」と視察の意義を強調。一方、処理水放出の安全性に関する評価は避けた。追加分析を行った上で、最終的な評価を公表するとしている。

ユン・ソギョル（尹錫悦）政権は、近く公表される国際原子力機関（IAEA）の評価結果などを踏まえ、科学的な根拠に基づき、放出の是非について総合的に判断することにしている。

この問題をめぐり、韓国野党は反発を強めている。最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン（李在明）代表は今月22日、北東部のカンヌン（江陵）で水産業者と面会し、「日本の汚染（処理）水放出はあってはならない無責任な行為だ」と批判した。野党「正義党」のイ・ジョンミ（李貞味）代表は26日、海洋放出計画に抗議するため、ソウルの日本大使館前でハンガーストライキを行った。李貞味代表は記者会見し、ある調査で処理水の海洋放出に反対する意見が約84%に上ったことを紹介し、「放出が目前に迫っているのに、政府は一貫して黙認している」と批判した。

韓国内では、ソウルの海鮮料理店や寿司店で客が急減する事態となっている。また、放出前に天日塩を買い占めようとする騒ぎも起き、産地の南西部・チョルラナムド（全羅南道）では、6月第3週に価格が前年比4割近く上昇した。

一方で、日韓関係の改善なども追い風となって訪日韓国人旅行者が急増する中、朝鮮日報は「インスタグラムなどソーシャルメディアでは、日本の東京、大阪、福岡、札幌などで寿司やウニなどを食べて記念撮影した写真が簡単に見つかる」とし、「日本旅行に関心のあるユーザーが集まるインターネット掲示板には以前と同様に『おいしい寿司屋を推薦してほしい』『コスパがいい刺身店が知りたい』といった書き込みが相次いでいる」と伝えた。

旅行業界の関係者は同紙の取材に、海洋放出の問題に関連して「日本旅行の企画商品は完売が相次いでいる。韓国国内で形成された不安感は誇張されたものなのか、大半の国民は実際には日本に大きな抵抗感は抱いていないということではないか」と話した。

韓国政府は引き続き国民の不安払しょくに努めており、科学的根拠を示さず国民の不安をあおる野党などの行為を「怪談」と批判している。ハン・ドクス首相は今月12日、野党議員から「安全が検証されれば汚染（処理）水を飲めるのか」との質問に「安全基準を満たせば飲める」と断言した。