関東大震災は1923年9月1日午前11時58分に発生。首都圏などが、現在の震度7や6強に相当する激しい揺れに襲われた。東京や神奈川を中心に11万棟近くの住宅が全壊した。また発生時間が昼時と重なったことから、同時多発的に火災が発生したことも被害をさらに拡大させた。火災で焼失した建物は21万2000棟を上回り、このうち住宅は44万7000戸に上る。死者・行方不明者は10万5000人を超え、明治以降の日本では最大の災害となった。
地震そのものの被害だけでなく、「災害時のデマ」も問題になった。地震の混乱の中で、「朝鮮人が暴動を起こした」、「井戸に毒を入れた」などとデマが飛び交い、軍や警察のほか、民間人で組織された自警団らが日本で生活していた朝鮮人や中国人を殺害する事件が起きた。「朝鮮人虐殺」と呼ばれるこの事件の正確な犠牲者数は不明だが、内閣府中央防災会議の報告書は、震災で亡くなった約10万5000人の「1~数%」と推定している。
虐殺された朝鮮人らを追悼するため、東京・墨田区の都立横綱町公園には1973年、朝鮮人犠牲者追悼碑が建てられた。翌年から毎年、同公園では日朝協会などでつくる実行委員会の主催で追悼式典が行われている。
しかし、この追悼式は近年、虐殺の犠牲者数に疑問を呈する団体によって妨害を受けている。保守系団体「そよ風」は、追悼碑に虐殺の犠牲者が「6千余名に上る」と記されていることに「科学的根拠がない」と問題視。2017年から追悼式と同じ時間帯に同公園内で集会を開いてきた。東京都は、2019年の集会の際に参加者から発せられた一部発言について、翌年8月、ヘイトスピーチに認定した。
「そよ風」は今年も集会を開くことを既に発表している。これに対し、追悼式典の実行委員会側は17日、声明を発表。「そよ風」による集会について「死者を冒とくする集会だ」と非難し、都に対し、公園の使用許可を出さないよう求めた。
また、追悼式典には、歴代の東京都知事が追悼文を送っていたが、小池百合子知事は「全ての震災犠牲者を追悼する」として、都知事就任翌年の2017年以降、追悼文送付を見送っている。今年も追悼文を送らない意向で、既にその旨を実行委員会に伝えたという。これに対し、宮川泰彦実行委員長は「悲惨な虐殺の歴史を受け入れない、認めないという姿勢の表れではないか」と批判した。
一方、朝鮮人虐殺をめぐり、当時の状況を描いたとみられる絵巻が新たに見つかり、先月5日から高麗博物館(東京都新宿区)で一般公開されている。絵巻は震災から3年後の1926年に描かれた全2巻の「関東大震災絵巻」。福島県出身の元教員の画家が描いた可能性が高い。このうち虐殺の場面があったのは約14メートルの第1巻で、地震で家から逃げ出したり、火災に巻き込まれたりする民衆の姿が時系列で描かれる中、朝鮮人とみられる人たちが、刀や竹やりを持った在郷軍人らに襲われ、血を流して倒れている場面が登場する。
絵巻は同館の企画展「関東大震災100年 隠蔽(いんぺい)された朝鮮人虐殺」で12月24日まで展示されている。
絵巻には「此(こ)の惨禍に遭遇せざりし人々に示し、以(もっ)て省慮(せいりょ)の念を促し」と記されている。「この惨禍に遭わなかった多数の人々によく考えてほしい」という意味だ。100年前の震災直後に起きた悲惨な事件に、今こそ真摯に向き合う必要性を訴えかけている。
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