先月25日、ソウル地下鉄1・3・5号線のチョンノ(鍾路)3街駅のホームで、60代男性が70代後半の高齢者に暴言と暴行をはたらく事件が起きた。これを目撃した2人のソウル交通公社の地下鉄保安官は、被害の拡大を防ぐために60代男性を制圧しようとしたが、強制力を行使する権限がなくお手上げ状態だった。通報により警察が出動するまでの15分間、地下鉄保安官たちはこの騒動の間じゅう何もできなかった。

最近、殺害予告をはじめとする地下鉄での犯罪が相次ぎ、地下鉄の保安官に実質的な治安維持のための司法権の付与が必要だとの声が高まっている。

ソウル交通公社によると、先月21日のシンリムドン(新林洞)で起きた凶器犯罪事件以降、インターネット掲示板やソーシャルネットワーキングサービス(SNS)などで地下鉄駅での多数の犯罪予告が横行している。20日にはSNS上に「ソウルの新林駅で女性20人を殺害する」という内容の脅迫文を載せた30代男性が緊急逮捕された。先立って19日には地下鉄2号線で凶器を使って周りの乗客を威嚇し、このうち2人に傷害を加えた50代の男が警察に逮捕された。8月の1ヵ月間で、地下鉄での犯罪または殺人予告は45件に達すると集計されている。

これを受け、ソウル交通公社は地下鉄保安官55人をすべての列車に投入し、2人1組のパトロール体制を構築するなど、強力な対応に乗り出している。2011年にソウル市のオ・セフン(呉世勲)市長が導入した地下鉄保安官は列車内で不審な行動を発見するとただちに制止する任務を担当している。保安官は防犯服や防犯手袋、催涙ガス、スタンガンなどの安全保護装備を常時携行している。

ソウル市も地下鉄駅を中心に相次ぐ凶悪犯罪の発生および予告を受けて地下鉄保安官269人を投入することにしたが、さらなる補完の必要性も提起されている。地下鉄保安官は安全保護装備を備えているが、不審な行動を制止するためにこれらを使うのは事実上難しいためだ。地下鉄保安官のクォンさんは「18日に7号線の車内である乗客が他の乗客を脅迫するなど秩序を乱しているという通報を受けて出動したが、これに対応する上で侮辱と暴言を受ける被害にあった」と語り、「それでも現場でできることは通報を受けて出動する警察を待つことしかなかった」と吐露した。

地下鉄で各種の犯罪が増えていることを受け、地下鉄保安官にも司法権を付与すべきだとの声が高まっているが、これについては10年間足踏み状態が続いている。関連法の制定については2011年の地下鉄保安官の導入直後から提起されてきたが、管轄部署である法務部は「民間人に司法権を付与することはできない」という立場を堅守している。これに対してソウル交通公社は、国立公園公団と金融監督院の一部の職員も司法権を与えられていると反論している。

司法権の付与に反対する立場からは、司法権がなくても地下鉄構内または車内で暴れる乗客は保安官が現行犯で逮捕できると主張している。刑事訴訟法第212条により、現行犯は一般市民でも令状なしに逮捕できると規定している。

しかし、刑事訴訟法の規定にもかかわらず、現場では逮捕のために物理力を行使する場合、各種の民事・刑事訴訟の危険にさらされている。ソウル交通公社の関係者は「通報を受けた警察が到着するまでに被害が拡大しても、地下鉄保安官は安全保護装備を使用することに対して告訴されたり、損害賠償請求訴訟される恐れのため使用できない」と訴えた。

専門家たちは、日増しに増え続ける地下鉄での犯罪から市民を守るためにも、地下鉄保安官に対する司法権の付与について積極的に検討する時だと助言している。トングク(東国)大学警察行政学科のイ・ユンホ教授は「治安維持のための最小限の権限は付与することが必要だ」と述べ、「ただし、現在地下鉄保安官は単純行政職であるため、権限を付与するためには研修を受けることが前提にならなければならない」と付け加えた。
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