<W解説>モンスターペアレントに疲弊する韓国の教員たち、自殺者も相次ぐ現状に声を上げた
<W解説>モンスターペアレントに疲弊する韓国の教員たち、自殺者も相次ぐ現状に声を上げた
韓国で教員の自殺が相次いでいる。保護者からの過剰な要求や苦情が背景にあるとみられている。今年7月には、ソウル市内の公立小学校で2年目の教員が自殺。四十九日を迎えた今月4日、死亡した教員を追悼し、「教権(教師としての権威・権力)」拡大を求める集会が韓国各地で開かれた。韓国メディアは、教師としての権威・権限の低下をめぐって、教師らの怒りがこれほど噴出した例はないなどと伝えている。

韓国では学校で教えを受けている先生や、かつての恩師を敬い、感謝する日として「先生の日」(5月15日)が存在するなど、教師は尊い職業とされてきた。韓国語で「先生」を意味する「ソンセンニム」は、日本語に直訳すれば「先生様」となる。しかし、そんな尊敬の対象である韓国の教師たちの多くは今、教師としての権威・権利が脅かされる「教権侵害」に悩まされている。

最近実施された世論調査では、教員の99%が教権を侵害されたことがあると答えた。93%は児童・生徒の指導中に児童虐待で通報されることを恐れているとした。また、教員の87%がこの1年間に退職や転職を考えたことがあると答えた。さらに、27%が精神科への通院歴があると回答した。

保護者に対する教員の立場が相対的に弱いとされ、教員たちは「子供を教える資格がない」「うちの子供が成績が上がらないのはなぜなのか」などといった保護者からの苦情処理に疲弊しているという。また、韓国紙の朝鮮日報は「今や児童・生徒も、教師は保護者からの抗議に弱いということを知っている」と指摘した。ソウル近郊のキョンギド(京畿道)の小学校に勤務する8年目の教諭は同紙の取材に、昨年、児童から「国語の授業は面白くないから、お母さんに抗議してもらう」と言われたと話した。さらに、教育現場における教員による正当な指導が児童虐待として通報されるケースも多く、教員が正当な教育活動を行えなくなっているとの指摘も出ている。

今年7月、ソウル市内の小学校で1年生の担任をしていた2年目の教員(当時23)が遺体で発見された。この教員は死亡する前週にクラスで児童同士のいざこざがあり対応したが、後に、当該児童の一方の保護者が来校し、この教員に対し「教師の資格なし」と抗議。「子供たちのケアをどうするつもりなのか」などと迫ったという。教員は自殺したとみられている。この学校では、死亡した教員を含む職員たちが、保護者から寄せられる過度なクレームへの対応に苦慮していたという。

その後、ソウル近郊のキョンギド(京畿道)コヤン(高陽)や、南西部のチョルラプクド(全羅北道)クンサン(群山)でも小学校の教員が相次いで自殺しており、韓国の教育現場が混乱している。

教育部(部は省に相当)の調査によると、韓国で2018年から今年6月末までに公立の小・中・高校の教員100人が自殺したことがわかった。内訳は小学校が57人で最も多く、高校28人、中学校15人の順だった。

自殺した教員は2018年に14人、2019年に16人、2020年に18人、2021年に22人と4年連続で増加し、昨年は19人に減少したものの、今年は上半期時点で11人が自ら命を絶っている。

ソウルの小学校で自殺した教員の四十九日を前に、今月2日、ソウルの国会議事堂前で教員たちが集会を開いた。主催者発表で30万人もの参加者が集まり、「崖っぷちに追い込まれた教員たちを保護せよ」などとシュプレヒコールを上げ、教権関連法の改正を求めた。

自殺した教員の四十九日を迎えた今月4日にも大規模な集会が行われ、参加者たちは黒い服を着て集まった。だが、この日は平日で、臨時休校とした学校も一部あったが、年次有給休暇や病気休暇を取って集会に参加した教員は少なくなかったとみられている。教育部は集団行動のための有給休暇・病気休暇の取得や裁量休業は違法とし、処分を検討する考えを示していたが、5日、撤回した。イ・ジュホ教育部長官は5日、教師労組らとの会合で「故人に対する純粋な追悼の気持ちや教権回復への大多数の先生の気持ちがよく分かった。教育当局が先生たちを懲戒することはない」と表明した。

政府は今月初め、教員の自殺をめぐる真相究明を約束し、教員の権限回復に向けた対策を発表した。教員たちでつくる労働組合はこれに一定の評価をしているものの、教育権の保障、統一された苦情システムの開設など8つを柱とする政策の実行を求めている。




■自殺を防止するために厚生労働省のホームページで紹介している主な悩み相談窓口
●こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556
●よりそいホットライン:0120-279-338、岩手県・宮城県・福島県から:0120-279-226
●いのちの電話:0570-783-556

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