<W解説>韓国の死刑制度はどうなる?1997年以来、執行ない中、今月、死刑囚移送の特異な動き
<W解説>韓国の死刑制度はどうなる?1997年以来、執行ない中、今月、死刑囚移送の特異な動き
韓国では1997年を最後に20年以上にわたって死刑執行がない。こうした中、韓国メディアのイーデイリーによると、今月4日、2人の死刑囚が南東部のテグ(大邱)拘置所からソウル拘置所に移送された。同メディアは「死刑執行が可能なソウル拘置所に移送し、26年ぶりに死刑執行が現実のものとなるのか関心が集まっている」と伝えている。

経済協力開発機構(OECD)加盟38か国のうち死刑制度を維持している国は日本と米国、韓国の3か国のみ。日本では、直近では昨年7月、東京・秋葉原で2008年に7人を殺害し、10人に重軽傷を負わせた無差別殺傷事件の犯人の死刑が執行された。一方、韓国では現在59人の死刑囚がいるものの、キム・ヨンサム(金泳三)政権の1997年12月を最後に死刑は執行されておらず、実質的な死刑廃止国とされている。

ユン・ソギョル(尹錫悦)現政権は昨年5月の大統領就任後、死刑制度について公に立場を明らかにしていないが、韓国紙の中央日報によると、尹大統領はかつて時事週刊誌のインタビューで「強力な処罰は犯罪の抑止と比例しないという、いくつかの分析結果がある」と話したという。しかし同紙は、今年4月に掲載した記事で「死刑制度に関して尹政権の悩みが感じられる」と指摘。「尹政権は国内と国外で異なる立場を示している」と伝えた。尹政権は昨年7月の憲法裁判所弁論では死刑制度の存続論を前面に出したが、5か月後の12月の国連総会では死刑執行モラトリアム(事実上の死刑廃止)に賛成票を投じた。これに、韓国刑事・法務政策研究院のキム・デグン研究室長は同紙の取材に対し、「死刑制度をめぐる尹政権のジレンマ的な状況が表れた場面」と指摘した。

前出のイーデイリーによると、今月4日、韓国法務部(法務省に相当)と矯正局は、大邱拘置所に収監されていた死刑囚2人をソウル拘置所に移送した。このうちの1人は、21人を殺害、もう1人は新婚夫婦を猟銃で殺害した罪で死刑判決を受け収監されている。2人が死刑執行が可能なソウル拘置所に移送されたことから、これは執行のための動きではないかと注目が高まっている。また、法務部のハン・ドンフン長官(法相)は、2人の移送に合わせて死刑施設の点検も指示したという。

韓国では、今年7月~8月にかけて、無差別殺傷事件が相次いだ。7月には、ソウルの地下鉄シンリム(新林)駅近くで通り魔事件が発生し、1人が死亡、3人が負傷した。また8月には、韓国・ソウル市郊外のキョンギド(京畿道)ソンナム(城南)市でも通り魔事件があり、1人が死亡、13人が負傷した。比較的、治安が良いとされる韓国で立て続けに通り魔事件が起きたことは国民に衝撃を与え、不安が高まった。また、事件後から、ネット上に殺害予告が相次ぐ事態となり、日本大使館や日本人学校にも「爆破させる」などと記されたメールが届いた。韓国警察は一時、全国の主な密集地域に機動隊員や装甲車を配置したほか、地下鉄の駅など人通りの多い場所に警察官を立たせ、警戒に当たらせた。

凶悪事件が続いたこともあり、韓国では実質的に廃止となっていた死刑制度の復活を求める声が高まっている。

だが、死刑制度に否定的な欧州連合(EU)など、国際社会との関係を考慮しなければならないとの声も上がっている。前出のイーデイリーによると、ハン法務部長官は今年7月、国会司法委員会の全体会議で「死刑執行時に欧州連合との外交関係が断絶する恐れがある」と懸念を口にし、執行に慎重な立場を示したという。

しかし、昨年、韓国の世論調査会社の韓国ギャラップが実施した調査によると、国民の77.3%が「死刑制度を維持すべき」と答え、このうち95.5%が「凶悪犯に対する死刑執行が行われるべき」と答えた。

今月4日、死刑囚2人が大邱拘置所から死刑執行が可能なソウル拘置所に移されたことについて、前出のイーデイリーは「法曹界では、執行の可能性は低いとの意見が支配的だ。最近、凶悪犯罪が相次いだことから、政府が犯罪者に緊張感を与える意味で死刑施設を点検したとみられる」と伝えた。一方、同メディアは「一部からは執行可能性を完全に排除することはできないとの意見も出ている」と指摘。その上で、「(今回の死刑囚2人の移送は)凶悪犯罪に対する警告目的だろうが、最終的には執行の可能性を念頭に置いたものとみられる」とする、コングク(建国)大学法学専門大学院のハン・サンヒ教授の見方を伝えた。

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