元徴用工訴訟をめぐっては、韓国の大法院(最高裁)が2018年、雇用主だった三菱重工業と日本製鉄(旧新日鉄住金)に賠償を命じた。しかし、日本は戦時中の賠償問題に関しては1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場で、これを理由に被告の2社は履行を拒んだ。このため、原告側は、日本企業が韓国内に持つ資産を売却して賠償に充てる「現金化」の手続きを進めた。
元徴用工訴訟問題は日韓最大の懸案として、長年、解決の糸口が見えぬまま月日だけが過ぎることとなったが、昨年5月、韓国でユン・ソギョル(尹錫悦)政権が発足したことを機に風向きが変わった。尹大統領は大統領選候補者時から日韓関係改善に意欲を見せ、政権発足後間もない時期に解決策を探るための官民合同の協議会を立ち上げるなど、問題解決に向けた動きを活発化させた。
そして今年3月、韓国政府はこの問題の「解決策」を発表した。その内容は、元徴用工を支援する韓国政府傘下の「日帝強制動員被害者支援財団」が、元徴用工らへの賠償を命じられた被告の日本製鉄や三菱重工業に代わって遅延利子を含む賠償金相当額を原告らに支給するというもの。韓国政府が解決策を発表した際、尹大統領は解決策について「これまで政府が、被害者の立場を尊重しながら、韓日両国の共同利益と未来発展に符合する方法を模索した結果だ」と強調した。
長年、冷え込んでいた日韓関係だったが、韓国政府がこの問題の解決策を示したことをきっかけに、関係は劇的に改善に向かった。現在、政界のみならず、経済界、そして民間同士の交流も活発化している。
財団はこれまでに、勝訴した15人のうち、生存している原告の1人と10人の遺族への支給を完了したものの、ヤン氏を含む残りの原告と遺族の計4人は受け取りを拒否。財団はこの4人について、裁判所に賠償金相当額を預ければ原告が受け取ったのと同じ効力を持つとされる「供託」の手続きを始めた。しかし、供託の申請を受けた各地裁は「賠償金相当額の受け取り反対の意思が当事者に明確」などとして、供託手続きを不受理とした。ヤン氏に関する供託についても今年7月、南西部のクァンジュ(光州)地裁が不受理とした。
ヤン氏は、韓国政府が示した解決策について「政府の汚い金は絶対に受け取らない。三菱重工業が支払う賠償金でなければ絶対に受け取らない」などとして、これまで一貫して受け入れ拒否の意思を示している。
ヤン氏は、2018年に大法院が三菱重工業に賠償を命じる判決を出した、前述の元徴用工訴訟の原告の一人。日本統治時代の1944年、当時10代だったヤン氏は、働きながら学校に通えると誘われて来日した。朝鮮女子勤労挺身隊として三菱重工業名古屋航空機製作所で業務に従事したが、学校には通えず、無給で働かされたとしている。
昨年12月、韓国の国家人権委員会は、元徴用工の権利回復運動に寄与したとして、ヤン氏に国民勲章を授与する案を検討したが、外交部がこれに待ったをかけていたと報じられ波紋が広がった。当時、同部の当局者は「叙勲法に基づいた協議手続きが必要との意見を提示したに過ぎない」とし、勲章授与に反対したわけではないと説明したが、韓国紙のハンギョレは同部が「来年にしよう」などと意見を出していたと伝えた。元徴用工の支援団体などは、外交部が元徴用工問題をめぐる日韓協議への影響を懸念して勲章授与にストップをかけたと批判した。結局、昨年はヤン氏への授与は見送られた。
当時と大きく状況が変わった今年はどうなるのか注目される中、聯合ニュースによると、外交部の朴外相は今月10日、ヤン氏への褒章について、「ヤンさんが約30年にわたり徴用問題の認識向上に向け努力したことをよく承知している」とした上で「(元徴用工問題の)解決策が履行中である状況なども総合的に考慮することが重要だ」と述べた。昨年は外交部がヤン氏への勲章授与と元徴用工問題をめぐる日韓協議との関連性を否定していただけに、10日の朴外相の発言について、公共放送KBSは「国民勲章の授与と徴用訴訟問題の解決の関連性を認めたものとして受け止められている」と伝えた。
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