韓国の医師不足問題は、世界的にみて医師や病院の全体数ともに多い中で起きている。問題となっているのは地方において医師が圧倒的に不足していることと、医師が専門分野として前述の必須医療分野を避け、美容外科や皮膚科などを選ぶため、必須医療分野の医師が足りないことにある。
2020年には、韓国の人口1000人当たりの医師の数が経済協力開発機構(OECD)加盟国中、最低水準にあることが報じられた。韓国国会立法調査処(所)が同年に発刊した「OECD主要国の保健医療人材統計及び示唆点」によると、韓国の人口1000人当たりの医師の数は2.3人でOECD加盟国の平均(3.5人)を下回り、加盟国の中でも最低水準だった。
こうした事態を受けて同年夏、韓国では医学生らが、医師不足を訴えるストライキを起こした。ストライキでは、医師の全体数が足りていないのではなく、外科や産婦人科など、リスクが高い分野の医師への診療報酬が少ないことなどが原因でこれら分野の医師のなり手が少なく、結果的に医師不足を招いているとの主張がなされた。
しかし、こうした訴えもむなしく、2021年時点でも人口1000人当たりの医師数は2.6人と、前年とさほど変化はみられず、OECD加盟国の中で下から2番目に少ない人数にとどまっている。地域別にみると、ソウルが最も多く3.47人、最も少ない南東部のキョンサンプクト(慶尚北道)は1.39人で、地域間格差がはっきりと表れた。
医療従事者によるストライキは今年7月にもあり、全土で約6万5000人余りが参加した。
韓国政府は対策に本腰を入れ始め、医療界、患者団体、専門家などが参加する保健医療政策審議員会の傘下に専門委員会を設置。今年8月から医学部の定員拡大などについて議論してきた。今月17日には5回目の会合が開かれ、この席で保健福祉部(部は省に相当)のチョ・ギュホン長官は「医師の増員はこれ以上先送りすることができない」と強調。出席者に向け「いつにも増して医師の増員に対する国民的期待が大きく、社会的に熱望されている」とし、深い議論を求めた。その上でチョ長官は「医師の再配置、医療報酬の引き上げ、医療事故発生時の負担緩和など医療界の政策提案も政府が進めようとする方向と一致する。医師不足も避けられない現実であるだけに、人材拡充と共に推進する政策パッケージの議論のために具体的かつ実現可能な代案を示してほしい」と呼び掛けた。
その後、保健福祉部は19日、「地域必須医療強化方針」を発表した。政府は再来年の適用開始を目指して医学部の定員を拡大し、必須医療分野の人員の拡充を図る。また、首都圏の大病院に行かなくても、地方の病院で集中治療や応急措置を受けられるよう、地方の国立大学病院の対応能力を強化する。そのための方法として、地方の国立大学病院に対する規制を緩和して医師の数や報酬を増やすなど、待遇を改善する。また、国立大病院と地方の医療機関との連携を強化する。そのほか、医師の必須医療分野への定着のため、医療事故などで紛争が生じた場合に、患者側の救済と共に医療関係者の法的負担も減らす方針だ。一方、医学部の定員の増員については、かねてより医療界から反発があり、この日、具体的な増員の規模や方向性などは明らかにされなかった。
政府は今後、国立大学病院などと「地域・必須医療革新タスクフォース」を立ち上げて、具体的な実効策を立案し、来年までに個々の課題の詳細な履行計画を発表、実行していく。
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