<W解説>韓国・梨泰院雑踏事故から間もなく1年、安全対策は進んだか?
<W解説>韓国・梨泰院雑踏事故から間もなく1年、安全対策は進んだか?
韓国・ソウルの繁華街、イテウォン(梨泰院)で起きた雑踏事故から間もなく1年を迎える。事故現場近くには、多くの追悼メッセージが張られたボードが設置された。ボードでは「記憶は力になります」と記され、「私たちの記憶の力で、災難と惨禍が繰り返されない世の中がつくれればと思います」と呼び掛けている。また、遺族会のメンバーたちは今月16日に記者会見し、責任者の処罰を改めて訴えた。

事故は昨年10月29日、ハロウィーンを前にした週末でごった返す梨泰院の通りで起き、日本人2人を含む159人が死亡した。犠牲者は10代、20代の若者が多かった。

梨泰院はかつて米軍の駐屯地があったことから外国の文化が集まり、その文化に触れることができる場所としても有名だった。動画配信サービスのネットフリックスで配信され、大ヒットした韓国ドラマ「梨泰院クラス」の舞台となった観光名所でもあり、日本人観光客にも人気のスポットだ。

多くの人でにぎわう場所である一方、路地裏など、狭い道も点在しており、事故が起きた通りも幅3~4メートルほどの細い坂道だった。狭い通りに人があふれる中、一部の人が転倒したのをきっかけに、通りにいた人が次々と折り重なるように倒れる群衆雪崩が起きたとみられている。

この事故では警備体制の甘さや警察や消防の対応の不備が指摘された。新型コロナウイルスの流行に伴う行動制限がない中で迎えたハロウィーンということで、多くの人出が予想されていたが、警備に動員された警察官らの人数は少数だった。また、事故発生の数時間前から「人が多すぎて圧死しそうだ」などといった通報が警察や消防などに多数寄せられていた。国民からは警察や行政が適切な対応が取らなかったことが事故を招いたとの批判が噴出した。

事故を受けて、警察庁は約500人で構成する特別捜査本部を発足。今年2月、捜査結果を発表し、管轄の自治体や警察、消防など、法令上、安全予防や対応の義務がある機関が事前の安全対策を怠るなど、事故の予防対策を取らなかったために起きた「人災」と結論付けた。

捜査の結果、安全対策や通報への対応が不十分だったなどとして、業務上過失致死傷などの容疑で現地の警察署長ら6人が逮捕、17人が書類送検された。一方、行政安全部(部は省に相当)のイ・サンミン(李祥敏)長官やソウル市のオ・セフン(呉世勲)市長、警察トップのユン・ヒグン(尹熙根)警察庁長らは人出の危険性に対する具体的な注意義務があったわけではなかったとして、「嫌疑なし」とされた。現在、地元警察署長や区長らの公判が続いている。一方、遺族たちは捜査結果は不十分で、さらなる事故の真相究明と責任者の処罰を求めている。

遺族会は事故発生から1年となるのを前に、今月16日、記者会見し、イ・ジョンミン(李正敏)運営委員長は「長い時間がたったのに、はっきりと明らかになったことはなく、処罰された人もいない」と不満を訴えた。

悲惨な事故を繰り返すまいと、警察やソウル市は再発防止に取り組んでおり、警察は今年4月、多くの人出を誘導する大規模な訓練を行った。訓練には歩行者役を含む約600人の警察官が参加し、徐々に増加する人出を誘導する手順を確認した。身動きできないほどに歩行者が増えた状況では、機動隊が建物の上からロープやはしごを道路に下ろし、歩行者を引き上げて避難させた。また、韓国警察庁は雑踏警備に「DJポリス」を導入した。

ソウル市は、今年のハロウィーンを前に、混雑が予想される地域に、AI(人工知能)を使った人波感知システムを導入することを決めた。高画質のカメラと映像分析サーバーが、街中を行き交う通行人の人数を自動的に計算し、リアルタイムで管轄区役所とソウル市庁、警察、消防に知らせるシステムだという。韓国紙・朝鮮日報によると、ソウル市の関係者は「パトロールに出る前に自動的に状況を把握し、共有することで、事故が起きる前に未然に対応しようというものだ」と説明した。また、電光掲示板も設置し、通行人に向けて密集度や危険情報を知らせるという。

また、政府と大統領室、与党「国民の力」は22日、ハロウィーンの期間中、人通りが多いと予想される韓国全土の各地点に行政安全部(部は省に相当)の局長級の職員を派遣し、「人波安全管理対策」を講じると発表。万全な体制で臨むことにしている。

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