事故は昨年10月29日、ハロウィーンを前にした週末でごった返す梨泰院の通りで起き、日本人2人を含む159人が死亡した。犠牲者は10代、20代の若者が多かった。
この事故では警備体制の甘さや警察や消防の対応の不備が指摘された。新型コロナウイルスの流行に伴う行動制限がない中で迎えたハロウィーンということで、多くの人出が予想されていたが、警備に動員された警察官らの人数は少数だった。また、事故発生の数時間前から「人が多すぎて圧死しそうだ」などといった通報が警察や消防などに多数寄せられていた。国民からは警察や行政が適切な対応を取らなかったことが事故を招いたとの批判が噴出した。
事故を受けて、警察庁は約500人で構成する特別捜査本部を発足。今年2月、捜査結果を発表。管轄の自治体や警察、消防など、法令上、安全予防や対応の義務がある機関が事前の安全対策を怠るなど、事故の予防対策を取らなかったために起きた「人災」と結論付けた。
捜査の結果、安全対策や通報への対応が不十分だったなどとして、業務上過失致死傷などの容疑で現地の警察署長ら6人が逮捕、17人が書類送検された。一方、行政安全部(部は省に相当)のイ・サンミン(李祥敏)長官やソウル市のオ・セフン(呉世勲)市長、警察トップのユン・ヒグン(尹熙根)警察庁長らは人出の危険性に対する具体的な注意義務があったわけではなかったとして、「嫌疑なし」とされた。現在、地元警察署長や区長らの公判が続いている。一方、遺族たちは捜査結果は不十分で、さらなる事故の真相究明と責任者の処罰を求めている。
事故から1年となった29日、現場近くの追悼スペースには多くの人が訪れ、犠牲者を悼んだ。遺族らは現場となった坂道を「記憶と安全の道」として整備した。設置されたボードには、訪れた人たちがメッセージを記した紙がぎっしりと貼られた。
ソウル市庁前の広場ではこの日、追悼集会が開かれた。集会には、遺族のほか、政界から与党「国民の力」のイン・ヨハン革新委員長や、最大野党「共に民主党」のイ・ジェミョン(李在明)代表、ソウル市の呉世勲市長ら、主催者の発表で約1万7000人が出席した。遺族協議会のイ・ジョンミン(李正敏)運営委員長は「この惨事を覚えておいてほしい。そうすれば二度とこのような惨事は発生しないだろう」と訴えた。
一方、尹大統領はソウル市内の教会で行われた追悼礼拝に出席し、「必ず安全な大韓民国をつくって彼らの犠牲を無駄にしないと誓う」と追悼の辞を述べた。遺族らは追悼集会に尹大統領の出席を求めていたが、「政治色が強い」として欠席した。李運営委員長は追悼集会の開会の辞でこの点に触れ、「政府の責任はないと考えていらっしゃるのではないか。答えを聞きたい」と述べた。野党からも批判が出ており、韓国紙のハンギョレによると、「共に民主党」の李代表は「国は惨事の時も今も、犠牲者と遺族のそばにいない」と非難。進歩党のユン・ヒソク代表は「野党が主導する行事だから参加しないのなら与党が主導すればいいのではないか。尹大統領こそ惨事を政争化している」と批判した。
韓国紙の中央日報は30日付の社説で、「大きな悲しみに直面すれば、争う中でも自制して遺族を慰めるのが優先だが、韓国の政界は今回も極端な対立を解決できず、追悼行事を中途半端なものにした」と指摘。野党に対しても「犠牲者の追慕より、世論に向けた攻勢の場として行事を活用する狙いが垣間見えた」と批判し、事故が政争の具となっている現状を嘆いた。
事故から1年。韓国政界に求められているのは与野党の対立ではなく悲惨な事故を二度と起こさないために気持ち一つに再発防止に取り組む姿勢だ。
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