<W解説>韓国最高裁、「帝国の慰安婦」著者の名誉棄損認めず=「学問の自由」抑圧の懸念は払しょくも、長期審理となったのはなぜか?
<W解説>韓国最高裁、「帝国の慰安婦」著者の名誉棄損認めず=「学問の自由」抑圧の懸念は払しょくも、長期審理となったのはなぜか?
著書「帝国の慰安婦」の記述をめぐり、名誉棄損(きそん)罪に問われた韓国・セジョン(世宗)大学のパク・ユハ(朴裕河)教授の上告審判決で、韓国の大法院(最高裁判所)は先月26日、罰金1000万ウォン(約110万円)とした二審判決を破棄し、審理をソウル高裁に差し戻した。「無罪の趣旨」による破棄・差し戻しだとしており、今後、同高裁で無罪判決を受ける公算が大きい。日韓のメディアは「日韓の歴史研究など『学問の自由』が抑圧される懸念はひとまず払拭(ふっしょく)された」(日本・毎日新聞)、「検察が学問の領域までほじくり返し、裁判所が時流に便乗した判決を下してはならないという常識を確認したことが遅ればせながらの教訓だろう」(韓国、朝鮮日報)などと報じている。

朴氏は2013年、日本軍による公的な慰安婦の強制連行を否定的に論じた著書「帝国の慰安婦」を発表。著書では、慰安婦問題を帝国主義下での女性に対する人権侵害と定義する一方、「『強制連行』という国家暴力が朝鮮人慰安婦に関して行われたことはない」と記し、当時の慰安婦と日本軍は「同志的関係」にあったなどと表現した。元慰安婦らは同著で名誉を傷つけられたとして2014年6月に朴氏を刑事告訴し、検察は15年11月、朴氏を在宅起訴した。一審のソウル東部地裁は17年1月、「元慰安婦の社会的評価を落とす意図はなかった」などとして無罪判決を言い渡した。しかし、二審のソウル高裁は同年10月に「虚偽の事実を示し、元慰安婦の名誉を棄損した」として一審の無罪判決を破棄し、罰金刑を言い渡した。1996年に国連人権委員会で採択され、慰安婦を旧日本軍に強制連行された「性奴隷」と明記した「クマラスワミ報告」などを根拠に、著作中の表現を「虚偽」と判断した。朴氏と検察はそれぞれ上告した。

先月26日、大法院は二審判決を破棄し、審理をソウル高裁に差し戻した。大法院は「二審が有罪と認めた表現は被告の学問的主張あるいは意見の表明と評価するのが妥当であり、名誉棄損罪で処罰すべき『事実の適示』とはみなし難い」と説明した。差し戻しは「無罪の趣旨」とした。

これを受け朴氏は「国家の考えとは異なる考えを語る自由、つまり根本的には思想の自由をめぐる判決だった。著書をめぐっては非常に多くの誤解を受けた。本は慰安婦問題の解決方法に関する支援団体の考えや主張などを検討したものだ。正しい判決を出してくれた判事たちに感謝する」とコメントした。

今回の判決について、共同通信は「韓国内で、日韓間の歴史問題に関する自由な学術的議論が萎縮することへの懸念は払拭されそうだ」と伝えた。また、毎日新聞は、朴氏が2017年にソウル高裁で罰金刑の有罪判決を受けた後、100人を超える日韓の研究者らが抗議声明を発表し、「身の安全を確保するためには、国内の主流集団が正しいと認めた歴史認識のみに従わなければならなくなる」と批判していたことを指摘。「韓国最高裁が示した『学問的な表現物に関する評価は、刑事罰ではなく、原則的に公開討論と批判の過程を通じて行われなければならない』との見解は、こうした主張を受け入れたものと言える」と解説した。

さらに毎日新聞は「元慰安婦を支援する市民団体の活動が『聖域』として扱われてきた状況に変化が生じたことが、最高裁判断に影響を与えた可能性がある」とも指摘した。1、2審当時は元慰安婦支援団体「正義記憶連帯」などの団体が対日批判で存在感を示した。しかし、2020年に同団体の寄付金不正流用疑惑が発覚。韓国国民の批判を浴び、慰安婦支援に対する関心低下も招いた。昨年5月に就任したユン・ソギョル(尹錫悦)大統領は、慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に解決」されることを確認した2015年の日韓合意の正常化を推進している。

また、今回、大法院が判断を示すまでには、元慰安婦らの刑事告訴から9年、二審判決から6年の年月を要した。韓国紙の朝鮮日報はこの点を指摘し、27日付の社説で、「なぜこれほど長期間を要したのかも検証すべきだ」と主張した。同紙は「事件を担当したノ・ジョンヒ大法官(主審)は18年8月、前任者の退任で事件を引き継ぎ、それから5年2か月後に判決を下した。ムン・ジェイン(文在寅)前大統領に任命されたノ氏は左派・革新系のウリ法研究会所属で、任命権者の意中に沿った判決を下すと評されてきた」と指摘。「今回の判決も文前大統領の任期中に十分下すことができる事案だった。パク・クネ(朴槿恵)政権が結んだ慰安婦合意を事実上破棄し、反日を掲げた文政権の路線と相容れないために判決を先送りし続けたのではないかという批判を免れない」とした。

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