KBSは2つのテレビチャンネルと6つのラジオチャンネルを持つ韓国最大の放送局。子会社を通じてケーブルテレビ、衛星放送なども運営している。公共放送のため、国民から受信料を徴収する一方、民放と同様、広告料も受け取っている。昨年のKBSの収入1兆5035億ウォン(約1729億3800万円)のうち、受信料収入は6935億ウォンで45.3%、広告収入は2601億ウォンで17.3%を占めた。
受信料は未納を防止するため、1994年以降、韓国電力公社が電気料金とともに徴収する形を取ってきた。この方式はKBSに安定した収入をもたらした一方、放送を見ていなくても事実上、強制的に支払う仕組みであることから、国民の反発が強かった。そのため、韓国大統領室は今年3月、受信料と電気代の徴収を切り離す分離徴収について国民に意見を募集。賛成の声が圧倒的に多かったことから、大統領室は今年6月、放送通信委員会と産業通商資源部(部は省に相当)に対し、分離徴収措置を講じるよう勧告。同委は分離徴収を盛り込んだ放送法施行令改正案を告示し、韓国政府は7月、閣議で改正案を決定した。今後、徴収の分離が進めば、未払い者やコスト増分などが減収となり、受信料収入は1000億ウォン台にまで減少すると見込まれている。
改正案の決定を受け、KBSは改正施行令が憲法に違反していないかなどの判断を憲法裁判所に求めた。当時のキム・ウィヨル社長は声明で「受信料を徴収するために2000億ウォン以上を浪費せざるを得なくなり、番組の削減や廃止につながるだろう。国民に多大な損害と混乱をもたらすことが予想され、改正を受け入れるのは困難だ」と反発した。
そのキム氏は9月に開かれたKBSの臨時理事会で解任決議にかけられ可決。尹錫悦大統領がこれを承認し、キム氏は社長職を解任された。ムン・ジェイン(文在寅)前政権時代に任命されたキム氏は、今年8月に与党系の理事によって解任案が提出されていた。KBSの経営の悪化や、時の政権(文政権)の意向に左右された偏向報道などが解任理由に挙げられた。
KBSは後任の社長候補に「尹錫悦(大統領)派」とされる朴敏氏を選出。尹大統領は今月12日、理事会の任命請求を受け、朴氏をKBSの新社長に任命した。朴氏は南東部のキョンサンナムド(慶尚南道)・チャンウォン(昌原)出身の60歳。ソウル大学政治学科卒業後、1991年に日刊紙「文化日報」に入社し、社会部長や政治部長、編集局長を歴任した。朴氏は13日に開かれた就任式で、「公共放送としてのアイデンティティを再確立し、KBSが国民からの支持と財政面での安定を取り戻せるよう取り組んでいく」と述べた。また、「KBSが信頼を取り戻すためには、能力や成果、効率を重視する常識的な組織に変わらなければならない」と強調。「大規模な組織再編や人事異動を恐れてはならない。自己改革が先行すれば、KBSへの信頼も回復するだろう」と述べた。
宣言通り、朴氏は報道本部長など本部長・センター長級の幹部9人と主要部署の局長・部長級の60人の交代人事を断行した。また、偏向報道との批判が一部で出ていたKBS第1ラジオの時事番組「チン・ジヌ・ライブ」やKBS第2テレビの「ザ・ライブ」の司会を交代させたほか、メインニュース「ニュース9」の「顔」も変えた。
こうした事態に労組は反発。全国言論労働組合KBS本部は「朴敏(新社長)体制の役職者を放送法及び団体協約違反で告発する予定」としている。現政権に批判的な韓国紙・ハンギョレは「KBS内部では、政策の自主性の侵害と不当な人事が物議を醸している」と伝えた。同紙はKBS理事会が朴氏を社長候補に選出した当時から、この判断に疑問を投げかけてきた。先月14日付の社説では「総選挙を控え、ついに公共放送を『政権にすり寄る放送局』にするという意図だろう」と尹政権を批判。「このようなやり方は必ず審判を受けるというのが歴史の教訓である」と警鐘を鳴らした。
KBSは国民から受信料を徴収している以上、政治的中立が求められることは言うまでもない。新たに任命されたKBSの幹部たちは、文前政権発足直後に主要職務から外されていた人物が多数という。政権が代わるたびに政権寄りの人物ばかりが幹部に起用されるようでは「公共放送」とは言えない。
Copyrights(C)wowkorea.jp 5