<W解説>韓国で医学部人気が過熱も、医師不足の矛盾
<W解説>韓国で医学部人気が過熱も、医師不足の矛盾
韓国で今月16日、日本の大学入学共通テストに当たる大学修学能力試験(修能)が行われた。今年の修能は約50万4000人が受験した。「超学歴社会」として知られる韓国で今、「医学部偏重主義」が問題になっている。塾や予備校は「成績上位者は医学部へ行け」と言わんばかりに発破をかけ、最難関のソウル大学へ入学しても「仮面浪人」して医学部受験に挑もうとする学生もいる。医学部人気が過熱している一方、韓国は今、医師不足に見舞われているという。

韓国ではかつて、ドラマ「SKYキャッスル~上流階級の妻たち~」(2018~2019年放送)が話題となった。富裕層が住む高級住宅街「SKYキャッスル」を舞台に、あらゆる手段を使って子供を有名大学の医学部に入学させようとする親たちの姿が描かれ、高視聴率を記録した。後に日本でも放送された。ドラマはかなり誇張された表現が使われてはいるものの、韓国の熾烈(しれつ)な受験事情をうかがい知ることができる。また、ドラマでは「SKY」が高級住宅街の名前として用いられているが、受験界で「SKY」は韓国で名門大学として認知されているソウル大学、コリョ(高麗)大学、ヨンセ(延世)大学の頭文字を取った表現だ。

韓国の「学歴至上主義」の過熱ぶりはとどまるところを知らないが、最近は「医学部受験偏重主義」が顕著になっているのが特徴だ。人気の理由は、医師が高収入かつ安定感ある職業だからだ。経済開発機構(OECD)の「2023年保健統計」によると、2021年の韓国の医師の年俸は2億6900万ウォン(約3102万円)だった。開業医の平均所得は一般労働者の6.8倍に上った。韓国の医師国家試験の合格率は約95%に上り、医学部合格が事実上、医師になる道を開く。

「医学部偏重主義」の実情について、韓国紙のハンギョレは「誰もがそうというわけではないが、ひとまず適正は聞かれも問われもしない。別の専攻に関心があったとしても、成績が少し良くなったと思われたら(予備校関係者らから)医学部を勧められる。塾での成績が上位圏であれば、医学部志望でなくても『医学部クラス』に編入される」と解説した。塾や予備校でも「成績が良ければ医学部を目指せ」と成績上位者に医学部受験を勧める雰囲気があるという。状況は次第にエスカレートしており、最近は塾に小学生を対象とした医学部受験の準備クラスまで存在する。

一方、韓国は今、医師不足に直面している。とはいえ、世界的にみて韓国に医師や病院の数が足りないわけではない。問題となっているのは地方において医師が圧倒的に不足していることと、医師が専門分野として内科や外科、産婦人科、小児科など必須医療分野を避け、美容外科や皮膚科などを選ぶため、命と直結する必須医療分野の医師が足りないことにある。

こうした状況を受け、韓国政府は10月、医学部の定員を2025年から拡大することを明らかにした。このため今後、医学部人気はさらに高まると予想される。医学部人気は医師不足を解消する切り札となると期待を抱いてしまうが、そう単純な話ではないようだ。医学部偏重主義をさらに助長させるに過ぎないかもしれない。「成績が上位で、浪人すれば医学部に届きそうだから」「高給与、安定を求めて」…。医学部受験偏重主義の風潮に踊らされ、医師になる覚悟と志が明確でない医学生が増えていったらどうなるだろうか。彼らがその後医師になったとしても前述した人手不足の必須医療分野の科を積極的に選択するとは考え難い。

韓国紙ハンギョレのファン・ボヨン論説委員はコラムで「医学部への偏りは、韓国社会が抱える慢性的な諸問題の縮図に他ならない」と指摘した。

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